目を覚ますと、殺風景な白い部屋に寝転んでいた。
立ち上がり、周囲を見回す。目につくのは、壁に扉が一つと天井にスピーカーが一つ。
『あなたには2人の人間からどちらかを選んでいただきます。』
唐突に無機質な音声が流れる。
『選ばれた方がいる部屋には毒ガスが流れ、中の人間は死にます。あなたがどちらを殺すのか選ぶのです。』
「なぜ私がそんなことを?」
『どちらも選ばなかった場合、自動的にあなたがいる部屋に毒ガスが流れます。』
選択の余地はないようだ。誰の仕業かはわからないが、ずいぶんと悪趣味なことを。
『二人の人間をそれぞれA、Bとします。Aには愛情深い両親と大勢の友人、そして将来を誓い合った恋人がいます。職場でも内外から慕われ、その働きは人々の暮らしを支えるものです。対してBには家族も友人もなく、知り合いと呼べる相手すらほとんど居ません。勤労意欲に乏しく、仕事を転々として将来性もありません。』
…くだらない。周囲との関係、社会への貢献度、何をとってもAが勝っている。Bが死んでも誰も悲しまない。
そういったことで人間の価値を決めていいのかと問いたいのだろう。だが、そういったこと以外でどうやって判断しろと言うのか。
「Bの人間を殺せ。」
『よろしいのですか?』
「どっちが生きてる価値のない人間かなんてわかった上で聞いてるだろ?」
『本当によろしいのですか?』
「いい。Bを殺せ。」
『Bはあなたです。』
沈黙が流れる。
『Bを殺しますか?』
「…待て。」
先ほど挙げられたBの特徴を思い起こす。私自身に当てはまることだ。
本当に趣味の悪い。どちらが生きている価値のない人間かなんて明らかだろうに。
『Bの死はほとんど何ももたらさないでしょう。Bの死体は自治体によって事務的に埋葬されます。Bが居なくなっても誰も気に留めず、勤め先の経営者は新たに人員を補充するだけです。』
「私の答えは…」
「Aの人間を殺せ。」
『よろしいのですか?』
「ああ、殺せ。」
『本当によろしいのですか?』
「Aを殺せ。」
『Aの死は多くの人に悲しみを与えるでしょう。中には精神的に深い傷を負う者も居るかもしれません。Aが居なくなることによる職務上の損失は大きく、社会にとっても不利益であると言えます。』
『それでもあなたはAを殺しますか?』
私はスピーカーを睨みつけ、にやりと笑った。
「だからだよ。」
扉が開き、外の光が差し込んでくる。
私は光の方へ歩き出し、無機質な部屋を後にする。
『あなたは間違った選択をしました。』
背後でそんな言葉が聞こえた。
【解説】
バットマンのジョーカーが捕まえた人間にこんな感じの選択を迫る漫画をTwitterで見て考えた。
なんか昔似たようなの見かけた気がするけど思い出せないのでオリジナルってことでええやろ。動画にすればツッコミが来るかも。
どちらの人間に価値があるかの問いだったが、保身とルサンチマン的思考によってAに死んでほしいという思いに塗り潰された。
何が正しいかはわからないけど、正しいか正しくないかって現実の選択ではあんま気になんないものですよねって感じの話。
Bはあなたですの展開の後、なんやかんやでAは私ですって展開に持ってくのもありかも。
声の主も監禁されていて、主人公に自分の代わりに死んでもらうことを目的としていたみたいな。こっち路線で詰めてももう一本作れそう。
大揉めの末、主人公は向こうを殺すことを決断。Aを殺すと宣言する(ボタン式の方がいいかも)。声の主は半狂乱になって泣き叫ぶ。
しかし、何も起こらない。すると、本物の犯人のアナウンスが流れる。
曰く、どちらを殺すかは多数決であると。主人公側に決定権があるというのは嘘だと。
声の主はもちろん主人公が死ぬべきだと決定。これで票数は1対1になる。
最後の1票が誰にあるのかを犯人に問う。犯人は実はもう一人これまでのやり取りを聞いていた人間がいたと答える。その人物がどちらを殺すかを決定できると。
その人物とは…
①無難な方。モニターに一人の少女が映し出される。彼女も誘拐されたようだ。二人はそれぞれ向こうを殺すように彼女を説得する。少女は責任の重さにただ泣きじゃくるのみなのであった。
②奇抜な方。視聴者の方を指さす。どちらを殺すべきか動画のリンクで分岐。視聴者に呪いの言葉を吐きながら死んでいく。
メモ程度に残しておく。いつか使うかも?