2026年5月6日水曜日

幻の生徒会選挙編5

私が生徒会会長に立候補したのは、この学校をより規律と規範を重んじた学校にするためです。近年、自由や個性が強調される一方で基本的な生活態度や礼節が軽視されつつあると感じています。そこで、挨拶や時間厳守、服装の乱れの是正といった基本事項を改めて徹底し、安心して学べる秩序ある環境を整えます。また、校則の運用を曖昧にせず公平かつ一貫した指導を行う体制を強化します。さらに、清掃活動や学校行事への真摯な参加を重視し、責任感と協調性を育てます。自由は規律の上に成り立つものです。今こそ原点に立ち返り、互いに節度を守ることで落ち着いた学びの場を築いていきます。


「ゆかり、これなんだが…」

「まるで意味がわかりませんね。」

ギャラ子とゆかりは顔を見合わせる。学校新聞の内容は写真に撮られて幹部陣に共有されている。それを二人は朝から何度も見返していた。

「何かおかしなことを書いてますか。私には至極真っ当なものに見えますが。」

モカは疑問を呈する。千冬からの密偵であることは隠したまま、しれっと幹部の話し合いにも参加できるくらいの立ち位置についていた。


「真っ当だからおかしいんですよ。」

「アタシ縦読みかと思ったもん。」

「新聞を作ったのは新聞部ですしそれは無いでしょう。私も暗号かと思いましたけど。」

答える気の無いゆかりとギャラ子に代わってあかりが二人の疑念を説明する。

「規律と規範なんて掲げて生徒の支持を得られるはずがありません。六花さんが掲げている自由と個性の真逆で、明らかにウケが悪いものです。ずん子さんほどの人がこんな悪手を打ってくるのが信じられないんですよ。」

「それはわかるけど、打算的に考えすぎじゃないかな。」

「というと?」

「詰まるところこれが、東北ずん子の理念なのでしょう。」


ギャラ子とゆかりはポカンとした顔を浮かべた後、同時に吹き出した。

「ギャハハ、聞いたかよオイ。」

「フフフなるほど確かにそうなのかもしれませんね。」

モカはそんな二人を憮然として見つめる。ゆかり単体ではそこまでではなかったが、この二人のセットはかなりウザい。常に他人を馬鹿にしているのが透けていた。

「そりゃあなた達からしたらゲーム感覚なんでしょうが、ずん子さんが生徒会長として誠実に臨んでいる可能性だって十分あるでしょう。」

「いや、笑ってすまなかった。だがその可能性は幾つかの観点から否定できる。」


ギャラ子が珍しく口数多く反論を並べる。

「まず、この文章自体のこと。自由や個性より規律や規範をという主張はいい。だがその後は何をするかを列挙するだけで論理展開に厚みが無い。小春六花だって他校で成功しているから自校でも取り入れるべきという論理を使ってる。自由や個性を尊重したことでどんな問題が起こってるか、規律や規範を尊重したらどんな成果が得られるかに具体性が無いと説得力が無い。」

不良と思っていたギャラ子から「論理」の言葉を出されてモカは思わず黙る。「また」「さらに」で繋いでいたことに違和感を覚えてはいたが、そう説明されると確かに薄っぺらい文章に思える。

「次に、東北ずん子の行動のこと。仮にあの女が一切打算なく自分の理念を伝えるつもりだったとしたら、今日まで選挙活動を行っていないことに説明がつかない。だってそうだろ?誠実に臨んでいるんだったら真っ当に自分の口でそれを伝えて回ってるはずだ。」

これまたその通りでモカはもう何も言えない。思っていたよりもずっとギャラ子は考えを巡らせていたようだった。

「そして最後に、東北ずん子は規則なんてクソ喰らえって人間なことだ。」


もう完全に言い負かされたつもりだったモカは、そこでまた口を開いた。ギャラ子の言葉に驚いた結果の無意識だった。

「え?ずん子さんが?」

ギャラ子も驚いたように眉を上げる。

「知らないのか?」

「ずん子さんは基本的に猫をかぶってますからね。本心を知る者なんてほとんどいませんよ。」

「クラスメートだから多少は知ってると思ってたわ。」

「…正直わたしも規則遵守の人だと思ってました。」

ギャラ子とゆかりのやり取りにあかりも割って入る。ゆかりと同じ演劇部でモカよりはずん子と親しいはずだが、あかりでもまだ知らないことだったようだ。

「ルールを破ってるところなんて見たことありませんが。」

「よく考えたらずん子さんの考えなんて私くらいしか知りませんよね。」

「アタシもいるだろ。」

「ギャラ子先輩が知ってるのはずん子さんの本性みたいなものでして、理念とか理想とかの思想的なものじゃあ無いでしょう。」

「なんでそんなことをゆかりさんが知ってるの?」

モカの問いにゆかりは大仰な溜めをつくったが、別にもったいぶるほどのことではないと気が変わったのか淡々と告げた。

「まぁ普通に聞いたからです。」


「普通に聞いた…」

「はい。あなたの目指すところはどこにあるのかと。」

「ええ…いや…そうか…」

秘密主義のずん子がゆかりにだけ本心を明かしたのかと思ったが、言われてみれば単純な話だ。

いったいどこの誰がどんな場面で一介の女子高生に自分の理念について尋ねるだろうか。ずん子は普通に聞かれたら答えたが、普通に聞いたのは結月ゆかりだけだったのだ。

「一時期一緒に暮らしてたこともありましたのでその時に。」

「え、同棲してたんですか!?」

「…同棲ってか同居。」

喰いついたあかりをいなしながら、ゆかりが続ける。

「モカさんはなぜ法ができたのかご存じですか?」

「ほ、法…?」

話の飛び方がエキセントリックすぎてモカは戸惑う。たぶん規則のことなのだろうが学校の校則程度のところからそこまで広げられるとは思わなかった。

「犯罪があるから…?」

「私は法があるから犯罪があるという考えなのですが、モカさんは逆なんですね。」

「御託はいいからさっさと本題に行け。」

ゆかりの問答に付き合う気は無いようでギャラ子が先を促す。


「では改めて、法ができたのは人が不完全だからです。不完全だから他者を害し、間違いを犯す。そして取り締まる側もそうです。不完全だから罪の定義も罰の程度も曖昧です。そうした状況を正すため、明確な基準を設けて世を治めようとつくり出されたのが法です。」

ゆかりが語り出すと場の空気が彼女のものに変わる。この弁論能力があるからこそゆかりはアジテーターとして集団を統べられていた。

「それ以前の世では徳による政治が目指されていました。人格的に優れた統治者の元、人民一人一人が他者を尊重し、秩序を守ることで世を治めようとしていたのです。しかし勿論そんなことはできませんでした。富める者は私欲に走り、貧しい者には余裕が無い。結局のところ人では無理だったから、人の代わりに法に世を治めてもらおうとしたのです。法とは人の可能性を諦めた妥協の産物です。」

「だから東北ずん子は法が嫌いなのか。」

「彼女がある意味で無法を望んでいるのはそうでしょう。所詮は妥協の産物である法もまたやはり不完全で、人の世には未だ不正がはびこっている。ただ彼女はそこまで理想主義者ではありません。徳による政治の敗因は全ての人に高い知性と善性を求めたことです。統治者を置くのであれば、優れているのは統治者だけでも良かったはずなのに。」

ゆかりが指を立てる。モカは話の着地点に何となく予想がついて嫌な感覚になる。

「完璧な人間になればいいのです。高い知性と善性を持ち決して間違わない。そんな者が統治者に、いや支配者になればそれ以外の者は不完全なままでいられる。」

「…そんなこと無理だよ。」

「無理でしょうか。」

「だって誰もそんなことできなかったから、法をつくったんでしょ。」

「誰もできなかったなんて言っていませんよ。長い歴史の中でちらほらとは居たでしょう。あくまで比率と影響力によって成し得なかっただけです。」

「じゃあそんな人たちを大勢つくろうってこと?」

「それも一つの手でしょうが、たとえ完璧な人間が東北ずん子だけだったとしても。」

ゆかりは今度こそ大仰な溜めをつくって話を締めくくった。

「彼女がこの世の全てを支配すればいい。」



あまりのスケールにゆかり以外の者たちは固まっていた。

東北ずん子がいくら優秀な人間だからと言って、荒唐無稽な世迷言に違いない。だが、ゆかりの演説に飲まれてしまったのか、誰も笑い飛ばすことができなかった。

「…まともじゃない。」

あかりが低い声で言った。

「ええ、ずん子さんはまともじゃないんですよ。だから少なくとも規律と規範を重んじてより良い学校をつくろうなんてのは絶対本心じゃないと言えます。」

あっけらかんとゆかりが答える。演説モードじゃなくなったことで空気が緩んでいった。

「あの女そこまでイカれてたのか。さすがにビビるぜ。」

「面と向かって聞かされた時はビビるというより痺れましたよ。こんな人間が存在するのかって。」

「そうか。羨ましいな。」

「ギャラ子先輩はずん子さんと何があったんですか?」

ギャラ子にモカが尋ねる。何をもってずん子のことを「規則なんてクソ喰らえって人間」だと断じたのか、ギャラ子はずん子のどんな本性を知っていたのか。

「今の話の後じゃあ大したことじゃないから言わない。こいつほど話すのが上手くもないしな。」


「ただ、なんていうか。」

ギャラ子は遠くを見つめながら語った。ゆかりのように圧倒される語り口調ではないが、ぽつぽつと本音を漏らすような心に迫る言葉だった。

「突っ張ってても粋がってても勝てないもんってあるじゃん。生活を支えてる親とか、社会的立場のある教師とか、パトカー乗ってやって来る警官とか。たまに限度を超えて逆らっちゃう奴も居るけどさ、そういう奴は消えてく。だからアタシらは不良と言いつつ、枠の中の存在なんだって思う。」

でもあいつは違う。ギャラ子は伸ばした手を握りながら呟く。

「あいつはだからしょうがないみたいなのができないんだ。気に入らないものは気に入らないし間違ってるものは間違ってるって言いたい。その結果立場が悪くなってもなんて逃げ腰じゃない。勝ちに行く。馬鹿みたいに強くて頭が良くて、デカい家の財力とか権力とか使ってくるあいつ自体が理不尽の塊みたいなもんだけど、理不尽を潰しに行ってる姿はなんつーか良かった。」

ギャラ子がスッと目を細める。モカはうすうす勘づいていたがその言葉で確信を持った。

反ずん子派の頭目であるが、ギャラ子はむしろずん子のことが好きなのだ。たぶんゆかりも。

好きの反対は無関心。異様な情熱を持って反ずん子の集会を開く彼女たちの根底にはずん子への憧憬がある。

だからずん子は危機感を持ってはいなかった。あるいは彼女たちこそが逆転のための手札…

モカは千冬にどこまで話すか迷っていた。ずん子が何かを企んでいるなら、千冬に余計な行動を起こさせることは却って邪魔になるかもしれない。


結局モカは千冬にその考えを話すことは無かった。

様子見の判断ではなく、かのんと六花が合流してきたことで一気に情勢が変わってそれどころではなくなったためだ。

モカはつかず離れずの距離感のまま集会の変遷を見届けることになる。




「知ってる?六花ちゃんのこと。」

「なんや?」

「なんかすごいことなってるんだって。」

「それじゃわからん。」

学校の課題をやりながら葵が茜に話しかける。姉妹共用の部屋で互いの勉強机に向かったまま視線は向けずに。

「ゆかりさんが変な集会開いてるじゃん、東北ずん子を負けさせようって。」

「…まだやってるんやな。」

部長であるゆかりがそちらにうつつを抜かしているため、演劇部の活動は休みになっていた。

茜にとってはあまり好ましいことでは無いのだが、ゆかりにとってはこうした時たまの奇行が創作のインスピレーション元になっているため強く言えずにいた。


「六花ちゃんが入って本格的に後援会になったらしくて、今じゃあもう100人くらい居るんだって。」

「そりゃあすごい。」

茜は反射的にそう答えたが、すぐに表情が曇る。

「大丈夫なんか、それ。」

「何が?」

「そんな大人数で集会開くようになったらなんかヤバいやろ。」

「選挙中の応援活動は自由だよ。とは言え生徒会選挙でこんなに盛り上がるのは我が校始まって以来だろうね。」

「ゆかりめそこまで煽ったか。」

「ゆかりさんじゃないよ、かのんさん。新聞部の部長さんだよ。」

中立を決め込むというスタンスで、ゆかりやあかりに話を聞いてはいなかった。だから茜は集会の内情を知らない。


「私とずん子さんと同じクラス。教室ではさすがに大っぴらに勧誘してはいないけど、たぶんこっそり声をかけて回ってるんじゃないかな。」

「対立煽りやと思ってたが、六花サイドについてたのか?」

「そうなんじゃないかな。」

茜は急に嫌な予感がしていた。ゆかりがまた変なことをやってるくらいの認識だったが、思ったより複雑な状況になっているようだった。

「中立でいるんじゃないの?」

そんな内心を見透かしたように葵は笑った。



「てのを聞いてな。」

「あー…」

次の日の朝、茜はゆかりに事の次第を聞いていた。

「大丈夫なんか?」

「まぁ大丈夫ですね今のところは。」

ゆかりはボケーっとした表情で答える。経験則だがこう答える時はあまり大丈夫ではない。

「どうなんや唯世かのんって。」

「結構デキる人ですよ。六花さんを連れて来たのもあの人ですし、それから人数を増やすために奔走してくれて。」

「人格的な方や。」

「人の人格をとやかく言える立場じゃありませんよ。」

ハッハッハとゆかりははぐらかす。これは別のことを考えているが敢えて黙っている時の態度だった。


「六花さんに聞いた方がいいかもしれません。」

ゆかりが指さす方を見ると六花が教室が入って来るところだった。

「おはよう!」

「よう。」

「茜が私たちの活動に興味があるようで。」

挨拶もそこそこにゆかりが話を切り出す。

「茜ちゃんも来る?」

「勘弁しろ。興味ってか心配や。」

「あーやっぱり生徒会選挙くらいで集会開くとかヤバいもんね。」

六花はまともな感覚をしているようで茜は安堵する。


「なんでそんなことになってるんや。」

「元々集会開いてたのはゆかりさんだからそっちに聞いてほしいけど。」

「なんでそんなことしたんや。」

「面白いかと思って。」

ゆかりは悪びれもしない。

「ずん子さんが放っておいてたし、私も放っておくつもりだったんだけど、とりあえず1回会ってみることにして。」

「唯世かのんって奴に言われてか。」

「うん、よく知ってるね。それで実際話してみたら、みんなヤバい人たちってわけじゃなくて一緒にやってくことになったんだ。と言っても大したことはしてないんだけどね。」

「お前を勝たせてずん子を負けさせるためか。」

「そういう人たちも多いけど、私はそれだけじゃ終わらせないようにしたいと思ってるよ。」

「ほう?」

「もし勝って生徒会長になったら、この学校を良くするために色々頑張っていきたからね。そのために今から仲間を増やしておいて損はないでしょ?」

「なるほど、単なる票集めじゃなくて生徒会長としてやってく上での地盤固めってわけか。」

「花梨先輩にとっての弓道部みたいなホームが私には無いからね。これからも校則の緩和とか撤廃とかで全校投票することもあるだろうし、ちゃんと支持者をつくっておきたいんだ。」

「良い心がけやな。さてはゆかりお前、せっかく育てた集まりが乗っ取られそうになってるから面白くないんか。」

「今はもう主役は六花さんですからねぇ。」

ゆかりが不服そうに天を仰ぐ。茜は呆れたようにゆかりの背を叩いた。



「とまぁゆかりと六花はそんな感じやった。」

「それで私にもか。」

「こういうのは3人くらいに聞くと正確な情報を得られるみたいやからな。」

文芸部の部室で茜とモカは向かい合っていた。本当の依頼人は千冬だが、表向きは茜とマキに頼まれたことになっている。茜に聞かれたら答えないわけにはいかない。

「六花もしっかりしてたし、大丈夫そうやとは思うけどどうや?」

「…わからない。」

不安が解消されつつあった茜とは対照的に、モカは重くるしく答えた。


「なんでや?やっぱり唯世かのんか?」

「かのんさんに引っかかるのはわかるよ。最初に爆弾を仕掛けてきたし、今も中立であるべき立場なのに六花さんの味方をしている。」

「ゆかりよりタチが悪い愉快犯か。」

「それは違うよ。かのんさんはたぶんずん子さんに反感を持ってる人。どちらかと言えばゆかりさんに煽られるようなタイプかな。」

「てことは純粋にずん子を倒しに行ってるわけか。」

「大番狂わせって言う新聞としての旨味と自分の個人的な感情の解消を同時にできるからね。人を集めて来てはいるけどこれ以上場をかき乱すことは無いと思う。」

モカは一息ついて頭の中を整理する。自分でも何に引っかかってるのかまだよくわかっていなかった。


「元々集会を開いてたのはゆかりさんと、先輩のギャラ子って人だよ。この2人が協力して仕切ってた。」

「また知らない名前だな。」

「ギャラ子さんのことは私もほとんど知らないけど、少なくとも悪い人ではないよ。ゆかりさんとは違うタイプだけど、ゆかりさんに近い行動を取ってる。」

「ゆかりに近い行動?」

「好きな人にちょっかいかけちゃうみたいな。」

「ああ、なるほど。」

ゆかりがずん子に突っかかるのは格上だと認めているからだ。そういう真意は茜も承知の上だった。

「だけどこの2人はあまり来なくなってきてる。」

「六花が集会の中心になったからか。」

「反ずん子を掲げながらも実態としては彼女たちの推しはずん子さんだった。六花さんは積極的に集会の参加者に声をかけて回ってて、六花派になる人たちも多い。それが面白くないってのはあると思う。」

「ウチとしてはゆかりが抜けてくれた方がいいがな。」

「近いうちにそうなるんじゃないかって気はしてる。」


「そして六花さんは確かにしっかりしてるね。なんとなく東北ずん子が気に入らないくらいの考えで集まっていた人たちに、意見を持たせてる。」

「自由と個性が公約だったな。」

「ずん子さんは規律と規範が公約だった。ギャラ子さんが連れて来た不良っぽい人たちは規律に反感を持ってる。先生や風紀委員には逆らってても、ずん子さんが出てきて黙らされたのが集会に来てる理由だったりする。」

「逆恨みやな。」

「そうだね。ゆかりさんが連れて来た人たちは何かと上手く行ってないことが多い。ずん子さんみたいな学業も部活動も両立させて何一つ恥じることのない立派な生徒であれみたいな規範を受けつけない。当のずん子さんが規範を重んじろなんて言ってきたら尚更。」

「完全にハマったな。それなら六花がちょっと話したらなびいたやろ。」

「易きに流れるようで私は好きじゃないけどね。」

モカからすると前の悪ふざけのような集会も好きではなかったが、今の馴れ合いのような集会も好きではない。

通り一辺倒のずん子の堅苦しい公約の方がずっと良かった。あれがずん子の本心ではないとしても、少なくとも自分は六花派ではないのだと思う。


「ほんでモカは何に悩んでるんや?」

「うーん上手く言えないけど、盤面がわかんなくなっちゃったんだよね。」

「盤面か。今は六花が優勢なんやないか。」

「新聞部でアンケート調査を進めてるみたいだけど、そう聞いたよ。なんせ未だにずん子さん何もしてないみたいだからね。」

「…嘘やろ。もうすぐ1週間前やで。」

「いったいどういうつもりなんだろうね。」

千冬は一周回って何も気にならなくなったようで、後は野となれ山となれの境地だった。地力だけで戦うのか終盤で一気に巻き返すのかわからないが、ずん子を頑張って信じているのだろう。

モカからは何かずん子の策がありそうだとは助言していた。ずん子派になり得る反ずん子派の筆頭二人、六花の公約の真逆になっている本心ではない公約、反ずん子派の集会を元に形になっていく六花の支持基盤。作為めいたものは感じていた。

選挙1週間前、二人の候補者の選挙活動の様子を伝える最後の学校新聞が張り出される。



幻の生徒会選挙編5

私が生徒会会長に立候補したのは、この学校をより規律と規範を重んじた学校にするためです。近年、自由や個性が強調される一方で基本的な生活態度や礼節が軽視されつつあると感じています。そこで、挨拶や時間厳守、服装の乱れの是正といった基本事項を改めて徹底し、安心して学べる秩序ある環境を整え...