昔考えた奴。たぶん動画にされることは無い。
平安の世を舞台に人知れず鬼を狩るついなちゃんの物語。プリキュアみたいなポップなノリでタイトルコールした後、急に時代劇みたいなナレーションが流れるギャップを考えていた。
鬼切丸を元にした、鬼とのバトルというより鬼側人間側問わないヒューマンドラマを軸とした一話完結型のストーリー。
時代考証や舞台設定などについて不勉強で、あまり数が揃わなかったためボツとなった。
マインド自体は今のついなちゃんの設定に引き継がれており、やはり一話完結型の鬼狩りストーリーを構想しているが、まだ動画には出ていない。
以下メモ書き。
①「京の町に雪が降る」
貧しい少女の視点でお話は進む。
前の年の日照りが原因でどこもかしこも食糧不足に陥り、餓死者がバタバタと出ていた。
お屋敷に勤める少女は毎日水くみの仕事をしがてら、こっそり水を飲んで飢えをしのいでいた。
どうしてこれほどお腹が空くのか。飲めども飲めども腹が満たされることは無かった。
ある日、屋敷に誰かが訪ねてくる。
食糧の無心に訪れる者が後を絶えないため、屋敷の門はずいぶん前から閉め切られていた。
その閉じられた門の向こう。扉を叩く何者かに少女は強い恐怖を抱いた。
なぜかはわからないが決して開けてはならないと直感していたのだ。
幸いその何者かの気配はすぐに遠ざかっていったが少女は気が気でなかった。
夜半、床に就いていると甘い香りが鼻をついた。
飢饉に陥るずっと前、まだ幼い頃に一度だけ水飴を分けて貰ったことがあった。その香りに似ていた。
飢餓感に苛まれ続けた頭ではもう何も考えられなかった。
少女は跳ね起きると香りの元を探り、門へと駆けていく。門の下から赤い水飴が染み出していた。
少女は門を開け放つと、甘い匂いを放つそれを口に放り込んだ。噛めば噛むほど液の染み出る。甘い人間の死骸。
「悪鬼め…」
少女はようやく昼間感じた気配がすぐ隣にいることに気づく。
鬼だけを喰らう鬼。ついなであった。
自分が悪鬼と呼ばれている意味がわからない少女、いや少女の姿をしていた鬼についなが真実を聞かせる。
屋敷にもう生きている人間はいない。一人残らずお前が喰い殺し、骨までしゃぶり尽くしたのだと。
記憶の混濁に戸惑う。最後に誰かと会話したのはいつだったろうか。
この辺りでは最も裕福な屋敷でもやっぱり食糧は足りなくて、最初に切られたのは自分だった。
水を飲んでも飢えが消えなくて、倒れ伏しても飢えが消えなくて、体が消えても飢えが消えなくて…
鬼に転じた。
自分の正体を悟り、ついなに襲い掛かる。しかし体は思うように動かなかった。
悪鬼羅刹になり果てても尚、飢えていたのだ。
「こんな思いをするだけなら生まれて来なければよかった…」
少女だったものは血と涙を流しながらそう呟いた。
空に雪が散らつき始める。
養和元年、京の長い歴史で最も多くの餓死者を出した年であった。
②「小さな手」
中途半端になっていたのでメモを書き足し。
城主のお姫様にはある噂があった。彼女は鬼に狙われていると。
鬼は姫を妻としようとしており、夜ごと城壁を登っては姫の寝室に入り込もうとしている。
そんな噂を聞きつけたついなは鬼退治に向かう。
城壁を登っていた鬼を見つけ斬りかかろうとするも、鬼の前に別の人物が立ちはだかる。
その若い男は刀で鬼と戦い始める。城に仕える警護の者のようだ。
若者はお世辞にも強いとは言えず、やられる前に助太刀に入る機をうかがう。
しかし何故か鬼は彼と少しやり合うと、そそくさと逃げ出してしまう。
追いかけるも鬼の姿は霞のように消えていた。
鬼退治を生業とする方相氏の振りをし、ついなは城に入り込む。
鬼の噂によって次々と娘の縁談が破談になり、頭を抱えていた城主はついなに討伐を頼む。
ついなは城の内部事情について調べ始める。
鬼と戦っていた若い男は城でも最年少で、身軽さを買われて姫の警護に当たっているようだ。
幾度も鬼を退けたことで彼は信頼を高めていっていた。
ついなは姫からも話を聞く。
夜目が覚めると、鬼が部屋に押し入ろうとしている。
彼が守ってくれるようになってようやく眠れるようになった。
ついなは若い男と姫の様子から、二人が惹かれ合っていることに気づく。
その夜、ついなは姫に鬼の正体についての推測を語る。
あの鬼は思念体だった。誰かの強い思いによって作り出されたもの。
そしてその誰かとは姫であった。
縁談を無くしたい姫の思いが鬼を作り出し、自分自身を攫わせようとした。
しかし眠っている間しか思念体は存在できないため、目が覚めたところで消えてしまう。
それでも鬼の噂は広まり、縁談は反故にすることができた。しかもその副産物として、想い人を傍に置いておけるようになった。
それからも姫が眠ると鬼は現れるが、当然男を傷つけるようなことはできずすぐに立ち消える。
姫は自分の心の奥底を見透かされて赤面する。ついなはこのことを誰かに話す気は無く、二人の恋を応援するつもりであると告げる。
鬼を追い払えるのが男だけであれば、姫は他の誰とも結婚できない。いずれは二人が結ばれるのを城主も認めざるを得なくなる。
ついなと姫はそう考えていた。
しかし現実は非情であり、城主には身分違いの恋を認める気は無かった。
二人の関係を知った城主は、姫を嫁ぎに出すことを強行する。
鬼がいつまでも姫を攫うこともせず、男を殺すこともしない。何か裏があることは看破されていた。
しかし城主はわかっていなかった。
鬼を作り出せるほどの境地ならば、鬼に変じることも容易であることを。
その日、鬼はこれまでの法則を破り城の中に現れた。
城主を含む数名を引き裂いたその凶暴な鬼に向かって男は刀を振るった。
いつも戦っていた時とは比べようもない力に彼は圧倒される。
それでも退くことは無かった。
全ては鬼を姫の部屋がある上階に行かせないために。
ついなが駆けつけた時、城内の惨状は既に手遅れだった。
鬼は力尽きており、その前には刀を抱いた男が座り込んでいた。
微かに残った姫の意識が鬼を躊躇わさせたのか、姫を守りたいという男の覚悟が鬼の力を凌駕したのか。
ついなが男に手を伸ばす。男も出血がひどく、もう助かりそうには無かった。
何も見えていない様子の男が姫様と呟く。
ついなは答えるように男の手を握る。
「こんなに小さかったっけか」
男はそう言って笑った。
③「踊る鬼」
中途半端になっていたのでメモを書き足し。
ついなは鬼に襲われていた男女を助ける。鬼には逃げられるが、どうやらその鬼は二人と因縁のある相手のようだった。
二人と行動を共にし、鬼が再び襲ってくるのを待ち構える。
鬼となったのは商人の男。醜男で金は持っていたが女にもてたためしは無かった。
遊女だった女に入れ込み、しつこく付き纏っていた。女が別の男と駆け落ちしてからも追いかけてきたと言う。
ついなは前回、恋仲の二人を守ることができなかった後悔もあり気負って戦いに臨む。
執着のある物品を取り込んで変じた鬼のようで、銭を武器とし防具としていた。
それほど強い鬼ではなく追い詰めるが、男が銭を拾おうとしたことで人質に取られる。
行く当てもない駆け落ちの旅で、お金が必要だったのだ。
鬼は女に語りかける。お金が無いのは惨めなものだと。自分を選んでくれればいくらでも貢いでやると。
女は首を横に振る。お金が無くてもその人がいいと。その人の方が大切だと。
それを聞いた鬼は男を放し、ゆっくりと歩き出す。
銭を使う鬼…商人の男のあまりに消沈した背中に、ついなは槍を向けることはできなかった。
商人の男は回想する。
誰からも好かれることは無かった。金で買った相手にすら、自分の姿には嫌悪を抱かれていた。
あの女だけだったのだ。
金だけと言っていた。金さえあれば他のことはどうでもいいと。
自分の醜い容姿など目に入っていなかった。女の目にはお金しか…
そんな彼女のことを愛していた。
花街に現れた鬼の姿に人々は驚いたが、すぐに駆け寄ってきた。
鬼は銭を振り撒きながら踊っていた。
高らかに笑いながら、軽やかに手足を運ばせながら。
鬼の通った後には銭だけが散らばっていた。
「銭だけと言うたではないか」
他の男のものになったことより、嘘を吐かれたことより。
お金しか信じないと言っていたあの女がもうどこにもいないことが悲しい。
鬼は頭を抱えて天を仰ぎ、そのまま自身の頭を潰して果てた。
銭を拾うのに夢中な人々がそれに気づくことは無かった。
④「京の町に鬼が出る」
最終話。