前回の続き。
このテープもってないですか?について考察していく。
電波的な会話内容について逐一掘り下げることはしない。いくらでも恣意的な解釈が可能だからである。
ここでは目に見える違和感のみ掘り下げていく。
〇「このテープもってないですか?」という番組について
・武田鉄矢の泣いて笑って武者修行(1987年)
・坂谷一郎のミッドナイトパラダイス(1985年)
・アレヤコレヤ博物館(1981年)
・ジョギングクイズ(1980年)
・素人勝ちぬき大相撲(1975年)
・スタンダップニッポン(1974年)
・その他 貴重かも!と思われる映像(年代を問いません)
これが冒頭で表示された今回募集したテレビ番組である。
武田鉄矢の泣いて笑って武者修行。ジョギングクイズ。素人勝ちぬき大相撲は実在。記載の年のみ放送されている。
アレヤコレヤ博物館。スタンダップニッポンはヒット無し。坂谷一郎のミッドナイトパラダイスも当然実在の番組ではない。
大体1970~1990年に放送された番組を募集していると思われるがこのチョイスはおかしい。
「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」は1980~1985年に放送された長寿番組である。放送終了年のみに限定されているのは不自然である。
スペースの都合で最後の年だけ記載した可能性もあるが、だとしても違和感は残る。確認できる他の番組は1年以内に終了しており、ビデオが残存していないのも納得できる。
だが「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」は5年間放送されており、コアなファンがついていたことも言及されている。明らかにこの番組だけ視聴者からビデオが送られてきやすそうなのである。
実際他の番組の映像は集まらなかったが、「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」だけ3本集まり三夜連続でそれが放送されることになっている。
この違和感について説明する方法として、初めから「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」を放送する番組だったという解釈ができる。
たまたまこの映像だけ「隠戊さん」から送ってもらったという体で番組を進行した。当然「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」があのような内容であることも把握していた。
「このテープもってないですか?」はモキュメンタリーだったのである。
…いやそりゃそうだろってツッコミはわかりますよ。うん。
テレビ東京が仕掛けたモキュメンタリーなのは当然として、番組内の世界においても「このテープもってないですか?」側が仕掛けたモキュメンタリーだったという意味です。
前編の考察であの「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」があの世の者に向けて放送されていたという仮説を立てた。
「このテープもってないですか?」という番組も同じく最初からあの世の者に向けて放送されている番組だったのだ。
新聞が届いていることからも、ラジオ、テレビなどのメディア情報はあの世にも届いていた。だからあの世の住人にもこの世で作られた番組を楽しむという文化があったのだ。
彼らに対して「この世の住人向けの番組」という振りをして、「あの世の住人向けの番組」を見てキャストがおかしくなっていくという番組を作ったのである。
つまり「このテープもってないですか?」において「いとう せいこう」、井桁弘恵、水原恵理が精神に異常をきたしていたのは演技である。いや「この世の住人」っぽく振舞っていたのを「あの世の住人」らしく戻したと言える。
「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」「このテープもってないですか?」のどちらも「隠戊さん」プロデュースの「あの世の住人向けの番組」だったというのが私の考察である。
〇「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」の第三夜について
坂谷さんら4人は完全におかしくなっており、ゲストは「ベビーカー」である。
ただただ坂谷さんがあの世の住人に見世物にされて苦しめられているとも捉えられるが、私は別の解釈を推したい。
坂谷さんは意外と満足している。
最初の頃はあの世の者からの干渉を受けることに怯えていたが、やがてあの世の者向けにミッドナイトパラダイスを放送することにやりがいを見出していったのである。
あの世の者たちもまた、坂谷さんをテレビスターとして見るようになっていった。「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」はあの世の人気番組だったのである。
坂谷さんが楽しそうに番組に取り組んでいる様子、視聴者が坂谷さんを頼りにしている様子が第三夜では描かれている。
年末の特別ゲストとして超大物である「ベビーカー」さんまで番組に出演し、瞬間視聴率は30%を超えたことだろう。
「ベビーカー」さんはあの世の住人を赤ん坊として再びこの世に送り出す上位存在であり、姿と声は我々には認識できなかった。
わざわざ送り出した赤ん坊をことごとく送り返してきた坂谷さんに怒っていたが、出演オファーを受けたあたり許してくれたようだ。
新生「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」では教育的な要素が強くなっていた。
あの世の住人が送ってくれた映像を紹介するとともに、この世とあの世のことについてトークする形式となったのだ。これには贖罪として転生前の赤ん坊向けの番組を作るという意味もあったのだと思われる。
話し方や間の取り方、演出や構成などあの世の住人が好むような番組作りになっている。だからこそこの世の住人である我々にとってはちょっとわかりにくかった。
あの世の住人向けの作りになったのは「このテープもってないですか?」の方もだった。現在の坂谷さんへのインタビュー映像。今にも死んでしまいそうな年老いた坂谷さんの姿を映すだけで何も語らない。
我々のノリだったら「Coming Soon」なんてテロップを入れて昭和の大スターがあの世に近々やって来ることを伝えてしまうが、あえて言わない。そういう侘び寂びがあの世の住人には好まれるのだ。
「隠戊さん」が口にし、「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」「このテープもってないですか?」の中でも繰り返された言葉。
大丈夫。もうすぐだ。
これはあの世の住人に対して、転生して再びこの世に旅立つのはもうすぐだという熱いメッセージだったのである。
〇まとめ
「このテープもってないですか?」は1985年12月頃にあの世の者向けに放送された「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」を紹介するための番組である。
「このテープもってないですか?」内で出演者がおかしくなっていったのはそういう演出であり、この番組は作中世界においてもモキュメンタリーだった。
坂谷さんはこの世の住人でありながら、あの世の住人向けに番組を作ることを受け入れていた。この世ではとっくに引退していたがあの世ではスーパースターだったのだ。
入れ子構造の2つの番組において共通のメッセージは転生を待つあの世の住人を勇気づけるものだった。
2022年現在、衰弱して寝たきりの坂谷さん。そして近づいてくるベビーカーの映像が入る。
これは近いうちに坂谷さんがあの世にやってきて「ベビーカー」さんとタッグを組み、「隠戊さん」プロデュースの新番組が放送されることを意味している。
「このテープもってないですか?」はその宣伝のための事前番組だったのだ。
40年近い月日を経て、かつては敵だった二人が作り出す番組はどのようなものなのか。
この世で放送されることはないかもしれないが実に楽しみである。
ごめんふざけた。
〇総評
何とかストーリーを組み立てることができたが完全に納得はしていない。無視してきた違和感のある部分も非常に多い。
ただ上記のような解釈だとそんなに不幸になった人もいないのでもうこれでいいことにする。
この作品の感想としては良く言えば挑戦的、悪く言えば不親切である。
作品の中で事実として断定できる部分が無く、ニコニコ大百科の情報以外信用できない。そのため推測に推測を重ねるこじつけ形式でしか考えられなかった。
ぼんやり見ても恐ろしく、詳しく見るともっと恐ろしいというのがこの制作グループの作品の面白さである。
しかし「このテープもってないですか?」では手がかりが少なく考察を深めにくかった。
私なんかであれば新聞紙が映った瞬間いつどこで発行されたものか確かめないととなるが、たぶん調べた視聴者はほとんどいないだろう。
他にも番組内で違和感が散りばめられているが、果たして拙さからくるものなのか、意図されたものなのか判断がつかなかった。
負けを認めるようだが視聴者に委ねるにしてもある程度動線は引いてほしかったというのはある。
後は単純なホラー作品として。
直接的ではないホラー表現の恐ろしさはあるが、キャストの会話はあまり恐ろしくなかった。というより終盤はかなり鬱陶しかった。
こういうののピークは「ん?お前今なんて言った?」って時であり、完全におかしくなってしまったらパプリカの教授よろしく飛び降りてしまった方がいい。
1話丸々全員頭おかしくなった状態でやられるのは結構しんどい。
気づきとしては私は意外と第一夜のバラエティが面白かった。一昔前のわざとらしいノリを思ったより楽しめる人間だったようだ。
元々作業用として片手間に見るつもりだったのにこうして考察なんか書いてしまって時間を浪費している。今後作業のお供とするならやっぱり何も考えずに見られるバラエティの方がいいかもしれない。
これで「飯沼一家に謝罪します」に続いて二作品見たことになる。「祓除」の事前、事後番組も見たがあれは考察するものは無いだろう。
「Aマッソのがんばれ奥様ッソ! 」「イシナガキクエを探しています」、そして現在放送中の「魔法少女山田」がある。
たぶん見たらまた考察を書かずにいられなくなると思うので当分見ないように気をつけたい。こんなん毎回やってたら時間がいくらあっても足りない。
ただ色々と勉強になったので今後には活かせるかなとは思う。このボリューム感で何か作るとなったらそれこそ時間が足りないだろうが。
ということでいったんおしまい。きっと面白いのでみんなは視聴して考察してみてね。
長文駄文失礼しました。