2022年6月19日日曜日

冤罪の証明

「この人痴漢です!!」

突如として少女は私の手を掴み、叫んだ。

「え!?いや…違います!」

辛うじて何とかそう言えた。

「触ったじゃないですか!!」

電車が揺れた際、かすかに手が何かに触れた…ような気がすると言えば気がする。だが意図したものではない。ここで認めたら社会的に死ぬ。

「しらばっくれる気ですか!この変態!」

私は助けを求めるように周囲を見渡す。

若い女性が1人、進み出て声を上げた。

「この人は触っていません。私が見ていました。」

助かった。そう思った。

「本当ですか?」

少女は怪訝な表情を浮かべる。

「はい。」

彼女は堂々とした態度だ。

「この人を庇うために嘘を吐いてるんじゃありませんか?だいたい電車の中で他の乗客のことなんか見てるものですか?」

「はい。私はいつもこの時間この車両に乗り、この人のことを見ています。」

「「え?」」

私と少女の声が重なった。

「この人がこの電車に乗るようになったのは2年前、社宅から今のアパートに引っ越してからです。それから平日は毎朝この時間に乗車しています。」

「車両が空いている時は座席に座り、本を読むかスマホで調べ物をしています。混んでいる時は立って鞄を抱きかかえ、外の景色を眺めるか目を瞑っています。」

「乗車時に限った話ではありませんが基本的に周囲の人に視線は向けず、体も触れないように気を遣っています。あなたの身体に触れたように感じたのは気のせいでしょう。」

私も少女も呆気にとられていた。おそらく他の乗客も同じだろう。

電車が止まり、扉が開く。

「あなたの降りる駅ですよ。」

彼女が私に微笑んだ。


~別パターン~

若い女性が一人、進み出て声を上げた。

「この人は触っていません。私が見ていました。」

「オレも見てたぞ!」

座席に座っていたサラリーマン風の男も声を上げる。

「僕も見ていました。」「儂も。」「ウチらも見てたよ~。」「我々も見ていた。」…

乗客たちは口々に声を上げる。

彼らの視線が一斉に私に向けられる。

「「「見てるよ。」」」


【解説】

珍しくオチが二つできて、どっちを選ぶか迷ってるショートストーリー。

一つ目のオチはホラーっぽい感じだけど、まぁ純愛っちゃ純愛って気がする。ちょっと羨ましい。

二つ目のオチはシュールさの大きいホラー。筒井康隆の短編とかこんな感じのが多かった気がする。

電車内での悶着から急展開。そのまま終わりって構造は同じ。

動画的な話をすると、痴漢を題材にするならやっぱり男キャラを出した方いいのかなって悩む。女が女に痴漢を疑われるという構図はさすがに違和感があるからね。

その場合、男キャラが女キャラに助けられることになるから一つ目はやりたくないな。恋に発展して…みたいな感じになるのは個人的に嫌。

でも男キャラを出さなくても、モノローグだけ入れて顔のない男主人公にする手もあるか。やるならそっちだな。うん。

二つ目を採用するなら男キャラを出してみてもいいかな。乗客の方も合わせて、まだ使ってない無料の合成音声ソフトの試験運用みたいなことができそう。

一分行かなそうだから小ネタ集みたいなのに収録するかも。

どっちも及第点だけどもうちょっと使い所を考えたいので置いておきます。


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