文章だけ先に形にしておこうかと思っていたが、結局下書きのまま動画を作ってしまったネタ。一応プロトタイプをブログに残しておく。
『海鼠』
主人公の少年は歩いていると、年の離れた兄に出くわします。
兄は自転車のかごに何か黒い萎びたものを乗せていました。
兄はそれを「海鼠」だと言います。海岸に打ち上げられた後、砂浜で太陽に灼かれ続けて干からびてしまったのだと。
海鼠が高級食材だと知っていた兄は、それを水で戻して売っぱらおうとしていました。
家に帰るとタライに水を張って黒く萎びたそれを浸します。ぬめぬめとした感触になり水を吸っているようですが、まだまだ元の大きさに戻るには時間がかかりそうです。
母はそんな二人のことを呆れたように見守っていました。 やがてそれは膨れ上がり、タライでは大きさが足りなくなりました。
帰って来た父がビニールプールを用意し、ホースで水を送ります。 それは太陽に照り付けられてぬらぬらと光っていました。もうビニールプールの端から端まで届くほどのサイズです。
その頃にはこれは「海鼠」ではないことは家族みんなわかっていました。
「海鼠」はこんなに巨大ではありませんので。きっと何か別の生き物が干からびた姿だったのだろうと話し合います。
母が何かもわからないのは気の毒だからとそれの表面を擦ります。汚れと海苔のようなものがこびりついていたようで、ぽろぽろと黒いものがこぼれ落ちます。
少年はあっと声を漏らします。母が擦る度、ちょっとずつ見えてきたのは白色のシャツと濃紺のズボン。今自分が着ているものと同じです。
あああれは自分だったのか。少年は直感的に理解します。
父が少年と黒い塊を交互に指差し、あれっあれっと言うようにおどけて笑います。
兄と母も笑っています。少年も罰が悪そうに笑いました。
まだ空からは灼けるような日差しが照りつけていました。
【解説】
久々の夢を元にした脚本。ほとんど夢の内容そのまま。
夢の中特有の奇妙だがどこか筋の通っている雰囲気を出せたらと思う。
あり得ない展開をさも当然のようにやっていく手法は「粘膜人間」を参考にしている。
主人公は海で溺れて亡くなり、打ち上げられた死体が太陽に灼かれ続けている。その最中に魂が見た夢、あるいは地獄のようなものだという前提で描写をつくった。
もちろん人の死体から水分が飛んで縮んだとて乾燥海鼠ほど小さくなることは無い。
もう1個くらい無いと動画にしづらいので作る。
『畳針』
主人公の少女は大きな芋虫を家に持ち帰ります。
大発見だと息巻いていましたが、姉はその生き物を「コンセマユ」だと教えてくれました。
未知の生き物ではなかったことで少女は興味を失っていましたが、家族はそいつに餌を与えて可愛がります。
あなたが拾って来たんだからとコンセマユは少女の部屋で飼うことになりました。
家族が代わる代わる部屋にやって来ては、コンセマユの調子はどうかと問いかけます。少女は家の中心がこの芋虫になっていくことを苦々しく思いました。
ある日、朝起きたら芋虫が蛹になっていました。大きな繭が襖にできて小さな部屋を圧迫しています。
少女が自分の生活圏を侵食されたことに怒り出すと、家族は我慢しなさいと叱りつけました。
どうして自分よりあんな生き物を大事にするのか。もしかしたらあの虫に催眠をかけられてるんじゃないか。
部屋の中で繭が大きくなるほど、少女の中でコンセマユへの敵意も大きくなっていきました。
少女はついに畳針を持ち出し、コンセマユを殺すことにしました。大きく畳針を振り上げ、思い切り繭に突き刺します。
畳針を引き抜くと真っ赤なドロドロした液体が流れ出しました。少女の手と部屋を赤く染めていきます。
死んだ。この生き物はもう成虫になることは無い。
紛れもなく自分自身が望んだ結果にも関わらず、少女の目からは涙が溢れました。
「ごめんなさい…」
小さく呟いたその言葉はきっと誰にも届かないのでしょう。
【解説】
コンセサマ。コンセイサマ。金精様。
遠野物語で記載がある民間信仰。男性器を象った石や木をご神体とする。縁結び、子宝、安産祈願など。
ヤママユ。ヤママユガ。山繭蛾。
かつては里山に広く生息していた野生種の蛾。別名に天蚕がある。
蚕のように成虫は口が完全に退化しており、蛹化してからは食事をとらない。繭は蚕同様に高品質な絹糸。
「コンセマユ」は2つを掛け合わせた造語になる。
意味合いとしては妊娠のメタファー。コンセマユの幼虫を見つけたことが妊娠の発覚、蛹化して大きくなっていくことが胎児の成長を暗示している。
タイトルになっている畳針は人工妊娠中絶に用いられる針状の物体を表しており、畳針を蛹に突き刺す行為は堕胎のことになる。
昔はそれこそ本当に針を刺して胎児をかき出していたが、今では先の丸い専用の医療器具を使っている。調べたら掻爬法と言うそう。
ただこの知識も古くて、現在ではより安全な吸引法や経口中絶薬が用いられてるそうな。
不気味な生き物を見つけて育てていたが、徐々に手に負えなくなって殺してしまう。それでも多少は愛着が残っており、悲しい気持ちになった。
というありがちなストーリーに擬態したドロドロの現実の話。
本文で描写されているのは主人公の精神世界である。
実際の彼女はもう大人であり、結婚もしている。しかし彼女の精神は成熟してはおらず、心象風景は小学生の頃のままになっている。
コンセマユの発見、すなわち妊娠は家族にとっては喜ばしいものだった。当の本人にとっては実感が湧かなかったが、コンセマユの幼虫は彼女の部屋で面倒をみることになる。
家族の関心が生まれてくる子供に向けられることへの不安感や嫉妬心。愛情が湧いてくることは無く、疎ましさが募ってくる。
彼女の部屋で膨れ上がっていく蛹は、自分の居場所を壊されるのではないかという恐怖とどうしようもない異物感を表している。
畳針を突き刺した時、流れ出る中身を見ながらこぼれた涙と謝罪の言葉にはもっと様々な感情が込められていた。
みたいなね。惜しむらくは本文だけを見てこの内容に思い至るのはほぼ不可能だということか。