いつだか書いてた超常現象調査員めたんちゃんの続き。
一つ一つがそれなりの時間と労力で作れそうなのでボチボチやり始めたい。順番的にはたぶんこっちから。
④夏の匂い
舞台は関東近郊の港町。過去視点。
中学生の少女、晴美は帰り道何度も背後を振り返る。
振り返っても何もいない。それでも歩き始めたらまた気配を感じ、振り返らずにはいられない。
鞄から手鏡を取り出し、目の前にかざす。振り返らずに鏡で背後を確認した。
黒い靄のようなものが自分の後ろについて来ていた。小さな子供のような影。
晴美は足を止め、うずくまる。
ごめんなさい…陽太…
しゃがみ込んだ晴美を小さな影はじっと見下ろしていた。
四国めたんはその頃、エージェントになりたてだった。
戦闘力においては申し分ないが、果たしてそれ以外の部分はどうか。
指導役である夜語トバリはめたんの実力を測るため、本来ならば放っておくような案件を任せると告げる。
幽霊に関する相談が霊能力者の組合では複数出回っている。その中から予知で本物だろうと裏付けされたものを一つ選出した。
暴力的な手段を用いずに幽霊を消し去る。
めたんはその任務を面倒がりながらも了承した。
めたんは指定された民家へと到着する。
そこには中年の夫婦と、叔父だという男性がいた。
叔父は小児科の医師をしており、幽霊の存在には否定的だった。夫婦が幽霊話をダシにお金を騙し取られるのではないかと疑っているようだった。
めたんはその疑いに反発することは無かった。心理カウンセリングで済むならそれに越したことは無いと話す。
たとえ心因性の幻覚であろうと得体の知れない幽霊であろうとやることは変わらず、やることが変わらないのならどちらなのかを断定する理由も無い。
めたんはどこまでも合理的で、叔父も説得されていった。
同年代の自分の方が話しやすいだろう。
めたんの提案はそうして受け入れられた。
夫婦には二人の子供がいた。姉の晴美と弟の陽太。
先日の梅雨の頃、陽太は増水した用水路に流され亡くなった。晴美と二人で家に帰る途中だった。
まだ幼い陽太を送っていた途中、晴美が彼から目を離してしまい事故が起こったのだった。晴美は責任を感じ暗く沈んでいた。
そしていつしか、陽太の霊が自分について来ると言い出した。
陽太は自分を恨んでいる。自分にも同じように死んでほしいと思ってる。
罪悪感から来る思い込みとも思われるが、トバリが幽霊だと言った以上、本当に幽霊なのだろうとめたんは考える。
その頃のめたんでは霊的な存在をそこまで感知することはできなかった。
特に陽太を送っていた帰り道に気配を強く感じる。
晴美の話を聞きながら、めたんは彼女はどうしてほしいのかを問いかける。
自分が殺されるのは構わないから、弟の霊を成仏させてほしいと晴美は訴えた。
成仏なんてものは無い、というスタンスのめたんだったが任務であることを思い出して了承する。
めたんは一旦当事者たちからの聞き込みは切り上げ、陽太が亡くなった状況について調査することを決める。
これには叔父が協力してくれた。と言うより叔父の方で十分に調べ上げられていた。
事故当日、晴美は下校する際に小学校に寄って陽太を連れて帰ることになっていた。
しかし、陽太は友達と一緒に近くの公園に遊びに行っており、晴美は校門前を散々探し回った挙句にようやくそのことを知った。
晴美が公園に向かった時には雨が降り出していた。元々降る予報だったが少し外れて、一時的に晴れ間が見えていた。そのために陽太らは公園に遊びに行っていたのだった。
無駄足を踏まされ雨に降られ不機嫌になる晴美。陽太が学校にいてくれればもう今頃は家についていたのだ。
陽太は姉の怒りを察してトボトボと後ろをついて行く。晴美はそれを時々振り返って確認していた。
会話も無く、雨の音がうるさい帰り道。晴美が振り返り陽太の姿が無かった時、いったいいつからいなかったのかを知ることはもうできない。
次に陽太の姿が見つかったのは翌日、用水路に浮かんでいるところだった。
事件性は無いのかとめたんは尋ねる。
叔父は片眉を吊り上げながらも素直に答える。
絶対に無いと否定することはできないが、その可能性は薄い。
陽太が用水路に滑り落ちたであろう形跡は既に発見されており、その周辺に怪しい足跡は無い。
彼は何らかの理由で自分から公園へと引き返し、その途中で足を踏み外したのだろう。
「何らかの理由とは?」とめたんは再度尋ねる。
彼のものであるお弁当箱の入った巾着が公園には置き忘れており、それを取りに戻ったと思われる。
警察の見解を伝え、叔父はその巾着袋を取り出す。遺留品として返却されたそうだ。
何かの役に立てばとめたんへと渡された。
めたんは色々と考えあぐねながらも、ぶっつけ本番でやってみることにした。
晴美と二人、その日も通った帰り道を歩く。
晴美に手鏡で背後を確認するよう促すと、今日も小さな黒い影がついて来ていた。
その姿はめたんにも確認できた。
このまま注視したまま歩こうとめたんは提案する。自分たちの思念によって多少なりとも姿形がはっきりすることを期待していた。
晴美は怯えながらも供養のためという言葉に押されて了承する。
めたんはこれまでのことを整理しながら話す。
晴美は陽太が忘れ物を取りに行ったことを知らなかった。事故当時の動揺により聞いていなかったか、敢えて伝えられなかったのだろう。
めたんは巾着を彼女に渡す。
その巾着は晴美がかつて家庭科の授業で作ったものだった。お弁当入れとして活用され、陽太も気に入っていた。
陽太は姉からの贈り物であるそれを大切にしていた。きっと晴美に死んでほしいなんて思っていない。
そんなめたんの言葉に晴美は涙ぐむが、めたんは「ていうのを考えたけどたぶん違うわね」と話の腰を折った。
死んだ人が何を思ってるかなんて知るわけがない。
めたんの開き直った様子に晴美は呆れながらも笑う。
自分には死者の心を読み取る力なんて無い。だから理詰めで推測を語る。
めたんはそう前置きして語り始めた。
私は幽霊の正体は残留思念だと思ってる。死者の未練と言ってしまってもいいのだろうけど、単純に最後に望んでいたことが残っているだけね。
それを消し去りたいならその最後の願いを叶えてあげることになる。あなたが望んでいる成仏というのもそういうことだと見なすわ。
それで、弟さんは最後に何を望んでいたのか。死にたくないとか生きたいとかかもしれないけど、それはちょっと叶えられないから置いておくわ。
私があなた達の話を聞いて一番気になったのは、弟さんがなんで死んだのかよ。
雨で増水した用水路に落ちたからなのはそうだけど、そうなるまでの経緯の方ね。
帰り道の途中、公園にお弁当入れを忘れてしまったのに気づいた。あなたには何も言わず、一人で取りに行こうとして足を滑らせた。
さぁなんでだと思う?
めたんの問いかけに晴美は返答に詰まる。
自分のせいだ、自分がちゃんと見ていなかったからだと悔やんではいたけれど、陽太自身のことはちゃんと考えていなかった。
頭の芯の方がズキズキと痛む。
陽太はなぜ…
「子供が黙って何かをやる時、その理由は一つしかない。あなたも私も知っているはずよ。」
めたんの言葉が心の深い部分を揺らす。
確かに知っている。だけどそれを認めることはあまりに…
「怒られるから。」
めたんが残酷に答えを告げた。
忘れ物をした。取りに戻って。
そんなことを言ったらただでさえ機嫌の悪い姉がどれだけ怒るか。
気づかない振りをして家に帰っても、自分があげたお弁当入れを失くしたことを責められるかもしれない。
子供にとって自分より大きな存在に怒られるのはどんな危険よりも恐ろしいことでしょう。
あなたが次に振り返るまでの間にお弁当入れを取って戻っていれば、公園に忘れ物をしたのを気づかれずに済む。
そしたら全部上手くいく。幼い彼はそう思った。
その試みが失敗して用水路に落ちた時、きっと最後に思っていたことは…
「怒られる…」
晴美は苦しげに呻く。
鏡から見える弟の姿はちょっとずつ確かなものになっていた。
陽太の顔が見える。あの日、振り返った時に見せていたのと同じ表情。
怒られるのが怖くて怯えている顔。
「言って。」
めたんが晴美に促す。
きっと陽太が最後に望んだ言葉。それだけが幽霊になってしまった彼にも届く。
「怒ってないから…」
こぼした言葉は涙声になっていた。今日になって初めて、本当に罪悪感と向き合えたのだ。
鏡から見える陽太の表情が変わる。驚いたような顔。
晴美は振り返る。陽太の姿は消えていなかった。
「怒ってないから。」
そう言って笑ってみせた。
「もういないわよ。」
作り笑顔から涙が溢れて止まらない晴美の代わりに、めたんが陽太の消滅を見届ける。
めたんにとっても成仏と言えるようなこの現象は初めてのことだった。
「これで終わりなの…?」
笑顔をやめ、悲嘆と苦悶の表情を浮かべて晴美が問いかける。
怒られるのが怖くて。怒られないから安心して。弟の人生の終着点にはたったそれだけしかなかったのだろうか。
「これで終わりよ。」
めたんが無慈悲に告げる。
まだ小学生だった。生きていればこれからもっとたくさんのことがあったはずだ。それでも…
「死ぬっていうのはそういうことよ。だから生きている間にやるしかないの。」
めたんの言葉は力強いけれど勇気づけられるものではない。今更言われてもどうしようもないのだ。
「本当にこれで終わりなの…?」
晴美の問いかけにめたんはもう答えることは無かった。
小さな陽太との思い出を振り返る。
どうしてもっと優しくなれなかったんだろう。どうしてもっと大事にできなかったんだろう。
罪も無く、罰も無く、当然許しも無い。
いつしか梅雨は明け、夏の匂いがしていた。
⑤日差しの差し込む部屋
舞台は中国地方の田舎町。過去視点。
四国めたんは霊能力者の組合と打ち解けていた。本来めたんの属する超能力者の組織とは不仲なのだが、偏見無く勉強熱心な姿勢が好感を持たれていた。
めたんにとって霊能力もまた、超能力と同様に興味深い未知の技術だった。
先日の依頼を鮮やかに解決したことでめたんの評判は広まっていた。
悪霊や妖怪退治のようなものではなく、人の心を解きほぐすような仕事は非常に難しく、それ故にそんな仕事をこなせる者は尊敬されていた。
霊能力者は人格的に優れ、人を助ける者でなければならない。
そんな組合の理念を内心堅苦しいと思いながらも、めたんは上手く立ち回っていた。
めたんと同様に年若くも才覚に秀で、仕事を任されている者に中国うさぎが居る。
彼女の霊力は既に大抵の大人たちよりも強く、お祓いやお清めを行う巫女として重宝されていた。
衣服を砂にする超能力者でもあることを知っているめたんは彼女のことを気にかけ、度々神社を訪れていた。
うさぎがお札を書いているのを眺めながら、めたんはその効用について尋ねる。
魔除けの札には2つの効果がある。
一つは退ける効果。悪しきものを跳ね返し、近づけなくする。
もう一つは封じ込める効果。悪しきものを閉じ込め、出られなくする。
使い方によって真逆の効果を使い分けることができるという講釈を、めたんは興味深そうに聞いていた。
儀式と違ってお札は書いて送るだけでいいから楽だとうさぎは笑う。
霊能力者の組合員から、あるいは組合員から紹介を受けた個人から、うさぎの元には沢山の封筒が届いていた。
うさぎは書き上げたお札を封筒に書かれた住所へと返送していた。
めたんはその杜撰さに驚く。
うさぎが決めたことではなく大人たちがそうしろと言ったのだろうとはわかるが、これでは完全にただの下請け業者である。
実際に現場で効力を発揮するのはうさぎの札であるにも関わらず、うさぎは現場のことを何も知らないのだ。
「…あなた、ちゃんと自分がやってることわかってるの?」
めたんは苦い顔で問いかける。うさぎは何のことを言われてるのかピンと来ていないようだった。
「例えばこれ、一枚いくらでやってるの?」
「えと、その辺はお父さんとお母さんがやってて…」
「わかってないの?」
「…お金にあんまり執着するのはよくないし。」
言葉を濁したうさぎにめたんは憮然とする。
「何にもわかってないのね。適切な額で受けてて適切な額で出回ってるかはあなたが把握するべきことでしょ。あなたの親が高値を吹っかけて私腹を肥やしてるとかならまだいいけど、依頼元の方で釣り上げられてるかもしれないじゃない。」
「それはどういう…」
「あなたが1枚1000円でちゃちゃっと書いて送る。受け取った相手は霊験あらたかな護符として1枚10万円で売る。効用は確かなんだからこういう商売がまかり通っちゃうじゃない。」
「そんなのする人いないよ。」
「なんでいないと思うの。依頼人の名簿は控えてるの。素性は把握してるの。あなたさっきからろくに確認もしないで機械的にやってるでしょ。」
図星だったようでうさぎは黙る。
「あなたちょっと危なっかしくて見てらんないわ。これまでに送られてきた封筒を全部出しなさい。あとあなたの親とも話すわ。」
有無を言わさないめたんの口調にうさぎは従うしかなかった。
めたんとうさぎはあるアパートを訪れる。
うさぎは居たたまれなそうにめたんの後ろをついて行っていた。
めたんの調査の結果、うさぎが作成した相当数のお札が使途不明だった。
あくどい霊感商法で評判が悪かった組合員の一人に疑いの目が向けられ、尋問したところ高値で転売していたことが発覚した。
自分の名義で取り寄せて売っていたほか、客自身に依頼の封筒を送らせることもあったそうだ。
偽物のお札よりも本物のお札の方がいざって時に機能して信用されやすい。
その組合員はそう言って笑った。
他にも同じことをしてる奴がいると思ったが、めたんはそいつを殴るだけで矛を収めた。
そいつはきちんと誰に何枚売ったかを記録していた。
その結果、明らかに異常な枚数を買い込んでいるカモが何人か見つかった。
精神的に追い詰められた人間が不安感から何枚もお札を集めてしまう。
めたんとうさぎが向かっていたのはそのうちの一件だった。
省略。後で書く。
うさぎはめたんに依頼人を助けてくれたことのお礼を言う。めたんは険しい目をしていた。
「テキトーにやり過ぎよ。」
冷たい物言いにうさぎの肩がびくっと跳ねる。
「人助けってそんな片手間でできるようなことじゃないでしょ。できないならできないでいいけど、できていない癖にできた気になるのは醜悪よ。」
めたんの言葉に明確な失望と軽蔑を感じ取り、うさぎは俯く。
「今回みたいに誤用されたり、悪用されたりすることだってあるの。あなたはその時頼まれただけだから知らないって言うのかしら。絶対に関係者だと見做されるし、なんなら首謀者だと疑われるわよ。」
「ごめんなさい…」
「私に謝ったってしょうがないわ。」
不機嫌ではあるが、自分の身を案じてくれてるのはわかっていた。
だからこそうさぎは顔を上げられなかった。申し訳なくて、恥ずかしくて。
「めたんちゃんはすごいね…私と年も変わんないのに…」
「私は天才と呼ばれる部類だから比べるだけ無駄よ。」
不遜なめたんの物言いにうさぎは苦笑する。
「ただアドバイスをあげるなら、まずは自分でやりなさい。誰に対して何をするのか。自分で考えて決めないと必ず後悔するわ。」
「…うん。」
「それともう一つ、あなたが本当に人助けをしたいなら。」
めたんが人差し指を立てる。
「笑いなさい。」
そう言う彼女の口元には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。
「不安そうな顔は人を不安にさせる。どんな時でも笑顔を忘れないように。私のお父様なんて事業が失敗して一家離散する時でさえ堂々とした笑みを崩さなかったわ。」
「さすがにそんな時は申し訳なさそうにしてほしいけど…」
うさぎも釣られて笑うが、その笑みは頼りない。
うさぎにはわかっていた。めたんの笑みは強さだ。
私には誰の助けもいらない。私がいれば何も心配することはない。
そんな意思表示の笑みなのだ。だからこそ輝いて見える。
いつかこんな風に笑える日が来るのだろうか。
うさぎは眩しさに目を細めた。
⑥後の祭り
舞台はとあるアパートの住んだ人が次々に不幸になるという呪われた部屋。現在視点。
続きは後で書く。
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