『もしもーしオレだよ。オレオレ。』
受話器から流れる声に聞き覚えは無かった。
「あの…どちら様でしょうか…?」
『いやオレだよ。オレだって。』
やっぱりわからない。そういう詐欺だろうか。
「番号をお間違えではないでしょうか?」
『オレだよ。』
話が通じない。
『オレさぁ、事故っちゃってさぁ。大変なんだよ。』
『家に帰る途中にさぁ、車でドーンだよ。参っちゃうね。』
示談金をせびってくる流れだろうか。そんなことは老人にやればいいのに。
『車のライトが近づいてくるのが見えてさぁ。あれ、なんか変だなって思ったときには横から突っ込まれててさぁ。痛かったなぁ。』
受話器を置こうとした手が、止まる。
『ちょうど壁と車に挟まれる形になってさ、骨とかミシミシ言って口から血が噴き出てさ、もう痛くて苦しくて車のボンネットとかバンバン叩いてさ。なのに車の野郎全然下がんねぇの。』
『見たらさ、運転手の奴スマホ片手に握りしめたままガタガタ震えててさ、いいから下がれって叫ぼうとしたけど声とか出ねぇからさ、ジッと睨みつけてたんだよ。』
『ようやく車が下がってオレが地面にずり落ちてさ、速く救急車呼んでくれよって思ってたら、その車そのまま逃げやがったんだよ。マジふざけんなって思ったね。』
手が震える。受話器を握りしめたまま動けない。あの時みたいに。
『憶えてるだろ。オレだよ。』
【解説】
かつて主人公がひき逃げした相手が「オレ」だった。
「オレ」の生死は不明。死人からの電話の方が収まりが良いけど、曖昧にしておいて問題は無さそう。
動画向きの話。サクッと作れてわかりやすい。
題名や細かい会話内容はもっと練れる気がしたけど、あんまり思いつかなかった。
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