「ア”ア”ア”~オ”ウ」
「ア”ア”ア”~オ”ウ」
「ア”ア”ア”ア”~オ”ウ」
今日も隣の部屋からあの声が聞こえてくる。ここ最近毎日だ。
媚びるような悶えるような苦しげな声。非常に不快だ。
隣室には確か爺さんと猫が暮らしていただろうか。たぶん猫が発情期に入ったのだろう。
サッサと去勢するなり番いを与えるなりすればいいものを。
そもそもこのアパートはペット禁止だ。それなのに野良猫を連れ込んでほぼ放し飼いにしている。
大家も知っているだろうに口を出さない。いったい何のための規則なのか。
…まあ分からなくもない。あの爺さんはもう長くない。
耳も頭もオシャカになりかけてる。無駄に絡んで面倒臭いことになるよりは、さっさとくたばってくれるのを待った方が良い。
私は布団を頭から被って寝ようとする。
暑苦しいがこうでもしないと寝れない。
「………オ”ウ」
「……ア”~オ”ウ」
「…ア”ア”ア”~オ”ウ」
ダメだ。寝れない。
今日は一段とうるさい。私は布団を剥いで、外の空気でも吸おうと窓を開ける。
…その時初めて気づいた。声が聞こえてくるのは隣室からではない。隣室のベランダからだ。
私は妙に思った。部屋に閉じ込められてないなら、外で番いを探せばいいのに。なぜこの場所で鳴いている?
私もベランダに出る。真隣から大きな鳴き声が聞こえる。他の住民から苦情が行ったりしないのだろうか。
柵からそっと身体を乗り出し、隣のベランダを覗き込んだ。
「ア”ア”ア”~オ”ウ」
カッと目を見開き、口を割けんばかりに開け、叫んでいた。
顔を皺くちゃにさせ、やせ細った全身に力を振り絞って叫び続けていた。
「ア”ア”ア”~オ”ウ」
「ア”ア”ア”~オ”ウ」
「ア”ア”ア”ア”~オ”ウ」
私は部屋に戻り、鍵を閉めると布団を被って寝た。
老人の叫び声は明け方まで続いていた。
【解説】
舞台設定までは実話。ていうか今現在。
流石に老人の声ではないと思う。猫の鳴き声だよたぶん。確認はしないけど。
生々しすぎる話なので動画にはしないです。
高齢社会の地獄を感じますね。
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