2022年6月25日土曜日

老いと盛り

「ア”ア”ア”~オ”ウ」

「ア”ア”ア”~オ”ウ」

「ア”ア”ア”ア”~オ”ウ」

今日も隣の部屋からあの声が聞こえてくる。ここ最近毎日だ。

媚びるような悶えるような苦しげな声。非常に不快だ。

隣室には確か爺さんと猫が暮らしていただろうか。たぶん猫が発情期に入ったのだろう。

サッサと去勢するなり番いを与えるなりすればいいものを。

そもそもこのアパートはペット禁止だ。それなのに野良猫を連れ込んでほぼ放し飼いにしている。

大家も知っているだろうに口を出さない。いったい何のための規則なのか。

…まあ分からなくもない。あの爺さんはもう長くない。

耳も頭もオシャカになりかけてる。無駄に絡んで面倒臭いことになるよりは、さっさとくたばってくれるのを待った方が良い。

私は布団を頭から被って寝ようとする。

暑苦しいがこうでもしないと寝れない。

「………オ”ウ」

「……ア”~オ”ウ」

「…ア”ア”ア”~オ”ウ」

ダメだ。寝れない。

今日は一段とうるさい。私は布団を剥いで、外の空気でも吸おうと窓を開ける。

…その時初めて気づいた。声が聞こえてくるのは隣室からではない。隣室のベランダからだ。

私は妙に思った。部屋に閉じ込められてないなら、外で番いを探せばいいのに。なぜこの場所で鳴いている?

私もベランダに出る。真隣から大きな鳴き声が聞こえる。他の住民から苦情が行ったりしないのだろうか。

柵からそっと身体を乗り出し、隣のベランダを覗き込んだ。

「ア”ア”ア”~オ”ウ」

カッと目を見開き、口を割けんばかりに開け、叫んでいた。

顔を皺くちゃにさせ、やせ細った全身に力を振り絞って叫び続けていた。

「ア”ア”ア”~オ”ウ」

「ア”ア”ア”~オ”ウ」

「ア”ア”ア”ア”~オ”ウ」

私は部屋に戻り、鍵を閉めると布団を被って寝た。

老人の叫び声は明け方まで続いていた。


【解説】

舞台設定までは実話。ていうか今現在。

流石に老人の声ではないと思う。猫の鳴き声だよたぶん。確認はしないけど。

生々しすぎる話なので動画にはしないです。

高齢社会の地獄を感じますね。


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