2023年8月27日日曜日

補遺(下書き)

今月何も更新せずに終わりそうなのでこいつだけ上げておく。

もう使い終わった奴。続きはまだ無い。


補遺01 結月ゆかり

第1話 否定と抑圧の少女

入学から2、3日後。結月ゆかりはあるアパートの一室で目を覚ます。彼女は実家から追い出され、高校から一人暮らしを始めていた。母との確執は飲み込み、父への義理立てのため、普通の生活を送る誓いを確かめる。

廊下で琴葉茜に声をかけられる。別の中学出身のクラスメートであった。ゆかりは茜のどこか周囲に一線を引いた態度に惹かれていた。円滑な学校生活を送るための「連れ」として茜と朝の時間を共にする。

クラスの中心的存在、マキとも朝の挨拶を交わす。ゆかりとマキは幼稚園以来の仲であったが、小学校高学年から中学にかけて疎遠になり、現在は微妙な距離感であった。

ゆかりは茜と昼食を共にする。委員会をどうするかの情報交換のためであった。一緒に図書委員になろうと誘おうとするが、言葉が出なくなる。自尊心が破壊されているゆかりには、自身の希望を他者に伝えることは許されていなかった。発作に耐えながら平静を装っていると、茜の方から誘ってくれた。ゆかりは茜に心の中で感謝を述べる。

委員会決めの話し合いの際、マキが学級委員に立候補する。他人事のように構えていたゆかりであったが、マキは相方として不意にゆかりの名を挙げる。ゆかりは拒否しようとするも咄嗟のことに口も頭も回らない。茜が助け舟を出してくれたおかげでマキと二人で学級委員をすることは免れたが、ゆかりはマキへの警戒心と茜への負い目を感じる。その際のごたごたで図書委員の二人には学級新聞製作の任が与えられる。

放課後、ゆかりは茜と余計な仕事を押し付けられたことへの愚痴を言い合う。茜との距離が縮まりすぎていることに、ゆかりは罪悪感と自己嫌悪を覚える。その時、教室の外から声がかけられる。声の主は茜の双子の妹の葵であった。ゆかりは茜が孤独な人間ではなかったことを知り、少し茜への情が冷める。

葵の誘いで弓道場に見学に行く。そこには葵のクラスメート、東北ずん子が待っていた。二人は学級委員をしており、ずん子が委員長であった。ずん子は文武両道な優等生ながらも、どこか飄々とした少女であった。ゆかりは葵の嫉妬と羨望の眼差しに気づく。葵とずん子の関係性を察したゆかりは嫌な気持になる。茜はそれには気づいてないようだった。

そのまま、ゆかり、茜、葵、ずん子の4人で帰路につく。ゆかりは望み通り普通の高校生のように過ごしているはずなのに、居たたまれない気持ちになる。彼女たちとの別れ際、3人は笑って「またね」と声をかける。ゆかりはなんだか胸がいっぱいになる。

夜、ゆかりは今日の出来事を振り返る。茜、マキ、葵、ずん子の人物像と今後の関係について思いをはせる。なんだかんだ、楽しかったなとまとめた時、発作が起こる。罪悪感と自罰心を解消するため、ゆかりは洗面所へと走り出す。

血を流すと頭がボーっとしてすべてがどうでもよくなる。混濁した意識の中、ベッドへと潜り込み、眠りにつく。もう目覚めないようにと願って。

そしてまた朝が来る。


第2話 先鋭と狭窄の少女

翌日。学級委員長になったマキが話しかけてくる。図書委員の仕事の一環として学級新聞の制作を依頼される(ゆかりとマキの微妙な関係を察したそらの差し金)。ゆかり、茜、マキの3人での集まりが定期的に行われることが決まる。

マキはこの機会にゆかりとの関係改善を目指すも、ゆかりにはやり過ごされる。ゆかりにとってマキは過去の人間であり、もう関わりたくない相手であった。茜は二人の仲を取り持つため、色々と気を回す。

茜がゆかりの家に遊びに来る。初めは世間話をしていた二人であったが、茜が核心へと踏み込んでくる。ゆかりとマキの関係について話を聞きたいようであった。茜はそういう詮索をしてこないタイプだと思っていたゆかりは疑念を覚えつつも、自分の過去を語る。本当はゆかりも自分のことを話したがっていた。

無関心な父親、過干渉な母親に挟まれ、自己の希薄な子供であったこと。マキは小さなころから親友として自分を助けてくれていたこと。劣等感と疎外感に耐え切れず、孤独を選んだこと。

茜は一歩引いた様子で話を聞いていた。ゆかりの言葉をすべて鵜呑みにする気は無いようだった。

ゆかりの話が母への恨み節に入った時、ゆかりの様子がおかしくなる。親や社会、ひいては普通に暮らしているすべての人間に対する嫌悪と軽蔑の念を爆発させる。ゆかりにとって彼らは何の知性も品性も持たない愚劣で低能な存在であった。

突然怒り出したゆかりに、茜は困惑と若干の恐怖を覚える。茜はゆかりの精神状態を心配し、病院へ行くことを勧める。ゆかりはそれを受け流す。

茜は普通の人間を嫌悪しているのになぜ自分には心を許しているのかと問う。ゆかり自身、なぜ茜を特別視しているのかわかっていなかったが、その答えを得る方法に思い至る。

ゆかりは茜に問い返す。いつかは恋をして、結婚して、子供を作りたいと思うかと。自分がそういった未来をたどることを想像できるかと。

茜は当惑の表情を浮かべたのち、目を伏せ答える。自分はそういうことはしないと。

覗き込んだ彼女の目は光を映しておらず、自分と同じ痛みを見出したゆかりは満足げにほほ笑んだ。


第3話 拒絶と偏執の少女

夜、ゆかりは今日の出来事を思い起こす。茜はあれから、自分の過去も語った。

茜は幼少の頃はいじめっ子であり、妹に大けがをさせたことでようやく更生したというものだった。たとえ生き方を改めたとしても自分という人間の根幹は変わらないため、幸せな未来を送る権利も能力もないと。

ゆかりも茜と同様、相手の言うことをそのまま真に受けることはなかった。だが、ゆかりにとって最も大切な部分、「苦しんで生きている」という部分は間違いないと確信した。ゆかりにはそれ以外どうでもよかった。

週明け、再会した茜はいつも通りであった。ゆかりもそれに倣い、変わらぬ態度で過ごした。しかし、ゆかりの茜への信頼は確固たるものとなっていた。

学級新聞製作の話し合いをする際、茜は何げなく小説の執筆を提案する。それだけ本を読んでいるなら自分でも書いてみたらいいという安直なものだった。ゆかりは茜という仲間を見つけたことで気分が高揚しており、話を作ってみることを了承する。

数週間後、学級新聞の第一稿が掲示される。ゆかりも茜もそんなもの誰も読まないと高をくくっていたが、思いのほか評判は良かった。特にゆかりが書いた短編は感心され、ゆかりは自分の中にある巨大な自尊心と承認欲求に気づく。ゆかりの精神は茜に対する信頼、マキに対する敵意、自身の能力への自信の3つの柱によって安定していく。

それから暫くは関係性の変化はなかった。茜とはすっかり相棒のような付き合いになっていた。マキとは表面上は友好的に接しながらも決して深くは踏み込ませなかった。葵やずん子とはクラスを跨いだ関係ながらも親しくなっていき、いずれかの家に集まって時間を過ごすこともあった。

学級新聞制作のためだけではなく、ゆかりは趣味で小説の執筆を始めるようになる。見せる相手は茜だけではあったが、自身の発想力や構成力が賞賛されたり、一緒にアイディアを出し合ったりする時間はゆかりにとってかけがえのないものであった。

学級新聞の第二稿も上々の反応で、夏休みを迎える。兼ねてからの計画通り、ゆかり、茜、葵、ずん子の4人で遊びに出かける。ゆかりは人生を謳歌することに対して罪悪感があまり湧き上がらないことに驚く。もう何か月も発作も起こしていない。変わっていく自分に不思議な感慨を覚える。

その後も時々、ゆかりは茜に小説を見せる。茜は文章が歪んでいると苦言を呈する。これまではもっと客観的な描写で、構成や展開の面白さで魅せていた。今はなんか思想が強くて見てられないと。ゆかりは初めて茜と険悪な雰囲気になる。

茜はゆかりに、マキときちんと話をしてみることを勧める。ゆかりは茜に対する信頼を捨て、また狭窄の世界に閉じ籠っていく。それから夏休みが明けるまで、ゆかりは誰とも会うことはなかった。


第4話 孤独と無縁の少女

2学期が始まる。ゆかりと茜の関係は学校では変わりなかったが、私的な交流は途絶えた。マキは半ばゆかりと仲良くなることを諦めたようで、あまり話しかけてこなくなった。ゆかりはこれで良かったのだと自らに言い聞かせる。

学級新聞の第三稿はまあまあの反応だった。目新しさも無くなったようで話題にはさほど上らなかった。クラス替えまでにもう1個出して終わりでいいかという話にまとまる。クラスの読書数は少しだけ増えた。

冬が来てクリスマスシーズンが近づく。当日は家族で過ごしたいという意見が多かったため、ゆかりの誕生日である12月22日にまとめてパーティーを開くことが決まる。茜とはまだ気まずい空気であったが葵やずん子も一緒だったため和やかに計画は進む。

当日、茜はゆかりの家にマキも連れて来る。ゆかりは茜に対して内心腹を立てるが、楽しい空気を壊さないようにと明るく振舞う。5人で過ごすうち、ゆかりはふと正気に戻る。自分はこれまで何に囚われていたのかと。

パーティーも終わり、茜、葵、ずん子は迎えに来た琴葉家の車で帰る。マキの親もすぐ迎えに来るからとマキは残り、ゆかりと二人きりになる。ゆかりはマキに母親が迎えに来るのかと問う。マキは母親は亡くなり、今は父親と二人暮らしであることを告げる。ゆかりは狼狽し、いつ亡くなったのかと問う。マキは小学校を卒業する頃だったと答える。

ゆかりはこれまで何の苦しみもなく生きていると思い込んでいたマキの本当の姿が見え始め、罪悪感と羞恥心で死にたくなる。そんなゆかりに対してマキは謝る。中学の頃から避けるようになってすまなかったと。ゆかりは呆気にとられる。

マキは続ける。ゆかりが母親との関係で荒れているのはわかっていたが、母を亡くしたばかりの自分にとってそれは共感と理解を向けられるようなものではなかったと。結果的にゆかりが一番苦しんでいるときに突き放してしまったことを涙ながらに謝った。

ゆかりはマキを慰め、マキの変化に気づきもしなかった自分の愚鈍さを謝る。二人はこれから溝を埋めていくことを誓う。

マキが帰って行った後、ゆかりは暫し放心状態になる。自分がこれまで信じてきた世界が完全に崩れてしまったような感覚に襲われる。その時、電話の着信が鳴り、ゆかりは反射的に電話に出る。マキか、茜かと思った。相手はゆかりの父だった。

突然かけてきたにしては当たり障りのない会話が続く。少しの沈黙の後、父がその言葉を口にする。誕生日おめでとうと。ゆかりは礼を言い、年末年始には帰省する約束をして電話を切る。ゆかりはその日、数年ぶりに泣いた。


3学期が始まる。ゆかりは茜に礼を述べる。茜は何のことだかわからないととぼける。マキとも軽く朝の挨拶を交わす。かつてのような気まずさは、さほど感じなかった。

最後の学級新聞は何とか年度内に完成した。ゆかりの短編小説はよくわからなかったという評価で終わった。ゆかりは大衆には私のような人間の苦しみはわからないと茜とマキに語った。

ゆかりは自分の創作物を発表する場を作ろうと考える。悩んだ末、新しい部活を作ることを決める。文章だけだと他のメンバーがすることがないし、部活でやる意味もない。何か多人数でできること。

その時ゆかりに天啓がひらめく。自分が脚本を考え、他の部員がそれに沿って演技をする。演劇部を作ろうと。

ゆかりの願いは自分の暗部をさらけ出した作品が他者に受け入れられること。それは不特定多数を対象としているようで、実際は演者である友人たちを対象としている。

ゆかりの自己を確立するための戦いはまだ始まったばかりだ。


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