『月喰』
起
辺りも暗くなった頃、家路を急ぐ一人の少女、リリン。
学校のホームルームの時間を思い出す。最近行方不明になる人が増えているから、まっすぐ帰るようにときつく言われていた。
だが帰り道の途中、薄暗い路地へと消えていく自分と同じくらいの少女の後ろ姿を見かける。
リリンはお節介と思いつつも、心配になって彼女の背中を追うのであった。
承
月光を受けて揺らめくその少女の姿はまるで幽霊のようで、リリンは声をかけるのをためらう。
意を決して話しかける。彼女は冷たく愛想のない態度だったが、確かに生きている人間のように思えた。彼女は「つくよみ」と名乗った。
つくよみは人を探していると答えた。リリンは行方不明になった誰かを探しているのだろうと察して、二の舞にならぬよう早く帰った方がいいと忠告する。
つくよみはそれには答えずに歩き出し、リリンは後を追う。一人で帰るようにと促すつくよみに、リリンは一緒に帰ろうと追いすがる。
二人はそのまま人気のない夜の街を歩く。
転
そんな二人に声がかかる。
若い男の声。こんな時間に子供だけで危ないから車で送ると誘った。
リリンは警戒して断ろうとするが、つくよみは打って変わって愛想のいい態度で車に乗り込もうとする。
リリンはつくよみの手を掴み、それを食い止める。リリンの必死な様子につくよみは意外そうな表情を見せる。
やや苛立ちを見せ、強引につくよみを連れて行こうとした男をリリンは突き飛ばし、つくよみの手を引いて走り出す。
結
逃げる途中、二人は転倒しリリンは意識を失う。つくよみは彼女を心配している自分に驚く。
追いついてきた男がリリンを蹴ろうとするのを制し、彼女はほっといて二人きりで楽しもうと男に提案するつくよみ。積極的な彼女の姿に男は困惑と喜色を見せた。
二人で車まで戻り、乗り込む。つくよみの服を脱がそうとした男の手が止まる。
彼女の体の異常性に気づいた。
胸部には女性的な膨らみこそみられるものの乳房はなく、肩の関節は球体によって接続されていた。それはまるで女性を模した人形のような。
どうしたんですか?
変わらず蠱惑的な笑みを浮かべる彼女。だがその笑顔はもはや男に興奮を呼び起こすことはなく、代わりに恐怖を呼び起こした。
逃げ出そうとする男をつくよみは掴んで離さない。抜け出そうと暴れた男の腕が、彼女にぶつかる。
彼女の顔が落ちた。
厳密には彼女の顔に当たるパーツが落ちた。
その下には何もない。
ただ真っ暗な虚が口を広げていた。
男の叫びは男の体と共にその虚へと飲み込まれていった。
食事を終え、満足したつくよみが車を出て歩き出す。
少し早歩きで元の場所へ。リリンはまだ倒れていた。
リリンに顔を近づけるつくよみ。
しばらく彼女の顔を眺めた後、ため息をついた。
「まったくもう。」
リリンが目を覚ますと、つくよみの背中で揺られていた。
背丈もさほど変わらないリリンを負ぶうのは大変そうだが、つくよみは軽々と足を進めていく。
その顔には優しい笑みが浮かんでいた。
『月喰』 完
【解説】
その日から始まるのは二人きりの旅の空想。みたいな。
ショートホラームービーを見漁ってた頃、こんな感じの作りたいなーって思って作った奴です。
なんかこうアニメーション感マシマシの編集でやったらいい感じになりそうと思いつつ、編集意欲が尽きてしまって作ってない。
つくよみちゃんは人形の付喪神的なものみたいな設定をどこかで見た気がするんですが、今探しても見つからない。夢で見ただけかもしれない。私夢と現実の区別がついてないから。
球体関節と胸部を板にすること、顔が外れるようにすることはやろうと思えばできる。つくよみちゃんは割と何してもいいらしいからそういう役回りにしたい。
リリンちゃんもメスガキ感は薄いけど、私基本的に良い子が好きだからこういう性格になりそう。
解説するほどのことじゃないと思いますが、つくよみちゃんの「人を探している」は「獲物を探している」って意味で、男について行こうとしたのは餌が向こうからやってきたからです。
リリンちゃんを食べようとしなかったのは単純に好みじゃなかったからで、成人男性を好んで捕食します。
ちなみにこの若い男は「なかよしの魔法」に出てたロリコン野郎でこいつを殺しとかないといけないのでこの話が作られたというのもある。
月喰はツクハミと読む。
題名を考えてないけどもう1個。
起
家に帰る途中、若い男の後を不審な女がつけているのを目撃する。
男の家は偶然にも自分と同じマンションで、女が男の部屋に押し入ろうとしている現場に遭遇する。
成り行きで女を追い払う手助けをし、男に礼を言われる。
承
なんとなく男の部屋を気にかけるようになる。
家を出る時、帰る時、男の部屋の方をちらりと見る。それだけだが。
ある日、ベランダから男の部屋に侵入しようとしている女を発見する。
思わず大きな声が出た。
転
大声に驚いた女はバランスを崩してベランダから落ちて行った。
鈍い音が響く。
駆け寄ると女が血を流して倒れていた。助からないと一目でわかった。
女は凄まじい形相で男の部屋を睨み続けていた。
結
女は事故死ということで認められた。
男はあなたのせいではないと慰めてくれた。
だが罪悪感は消えなかった。
今もあの女の死に顔が頭から離れない。
転(若い男視点)
警察の事情聴取を終え、自室へと帰ってくる。
あの女にはずいぶん手を焼かされた。どうしてわかったのだろう。
扉を開けると、足をベッドに鎖でつながれた少女がこちらを見つめてくる。
もう何も話さなくなってずいぶん経つ。
「お母さん、死んだって。」
彼女にそう告げる。
少女の虚ろな瞳が見開かれ、涙が溢れた。
おしまい。
ストーカーの女ではなく、行方不明の娘を探す母親だったんですね。
男の部屋にいると気づいたのは愛か執念のなせる業か。証拠はないから警察は動かせず、自力で取り返そうとしたんでしょうね。
死に際に視線の先にあったのは自分の娘だった。そのことに主人公が気づくことはないでしょうね。
またロリコンの犯罪者が出てしまった。せっかく一人倒したのに。
こいつは小ネタ集のトリを飾れそうな奴。
今日はもう終わり!閉廷!おやすみ!
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