2024年7月28日日曜日

鏡、勾玉、剣

夏に向けたホラー三枠。

最初に思いついた鏡に連想され勾玉、剣に関する話も作成。


①姿写しの鏡

テーマは複製。


4時44分ちょうどに踊り場にある姿見を覗くと鏡の世界に引きずり込まれる。

音街ウナの語るありがちな怪談を東北きりたんは鼻で笑い飛ばす。

不満げなウナにきりたんは昔からある話だと告げる。自分も小学三年生の時に聞いて試したが何も起こらなかったと。

がっかりした様子のウナを尻目にきりたんは読書に戻る。


放課後、委員会の仕事で遅くなったウナは例の姿見の近くを通りがかる。

どうせ何も起こらないよねと姿見の前へと立つ。

ゆらゆらと踊ってみせるが普通に自分の姿が映っているだけである。

そのままクルリと回ってみる。

視界の端、一瞬だけ捉えた鏡には立ったままこちらを見つめている自分の姿が映っていた。

驚いて離れようとしたウナの腕を鏡の中から伸びてきた手が掴む。

引きずり込まれそうになるのを耐えながら、必死に助けを呼ぶ。

その時、鏡の割れる音が響き渡った。


鏡の破片と投げつけられた単行本が踊り場に散らばる。

きりたんはウナの手を引き、姿見の前から引き離した。

礼を言うウナを横目に、単行本を拾うきりたん。

ひびの入った姿見からはもう腕は伸びてこなかった。

鏡を割ってしまったことをどうするのかと問われ、逃げるしかないと笑うきりたん。

ウナは自分がやったことにしていいから謝った方がいいと笑う。

ふときりたんから表情が消える。

鏡を見つめるその目は何かを考えているような、何かを思い出したような。

また鏡に映る姿が動き出したのかと身構えるウナに、きりたんは優しく笑いかける。

姿見の前を離れ、階段を下りるきりたんとウナ。

あの怪談には続きがあるんですよ。

きりたんが口を開く。

鏡の中に引きずり込んだ後、代わりに鏡の中の自分が出てくるんです。

それを思い出してました。


割れた鏡にきりたんの姿が映る。

涙を流しながら手を伸ばしていた彼女の姿は、4時45分になると同時に消えた。



②一連なりの勾玉

テーマは融合。


ネットショッピングで不思議なアクセサリーを見つけた花隈千冬。

白と黒の対となった勾玉のイヤリングで、互いに片方ずつ身につけることでその二人は結ばれるというものだった。

友情にも恋愛にも。そんな謳い文句に苦笑しながらも千冬はそれを購入する。


千冬には気になっている相手が居た。同じクラスの紲星さんだ。

高校からこの町に引っ越してきたという彼女はクラスでは高嶺の花だった。

新雪を思わせる白い髪と物憂げな青い瞳。

彼女とどうにかお近づきになりたかった。

買ったはいいもののプレゼントを渡すような間柄ではなく、彼女を目で追うしかない千冬。

そんな折、紲星さんが先輩の女子と話している姿を目撃する。

クラスでの姿とは異なり、人懐っこい様子で先輩に絡む紲星さん。

言い知れない失望と嫉妬心を覚えた。


それから千冬は先輩と紲星さんの仲を裂こうとし始める。

しかしその目論見は上手くいかず、やがて紲星さんには嫌われるようになる。

降り積もったフラストレーションは、いつしか紲星さんへの敵意に変わった。

ある日、階段を降りようとしていた彼女を後ろから…


動かなくなった紲星さんを前に我に返る千冬。

ただ仲良くなりたかっただけなのにどうしてこんなことをしてしまったのか。

後悔の涙を流しながら、あれからずっと持ち歩いていた勾玉のイヤリングを彼女の耳につける。

自分には黒の勾玉、彼女には白の勾玉。

世界がぐにゃりと歪んだ。


次の日の朝、何事も無かったように学校が始まる。

教室の席が一つ少なくなっていることに気づく者はいない。

放課後、いつものように先輩が彼女に声をかける。

右耳に黒の勾玉、左耳に白の勾玉。

黒と白の入り混じったその少女は嬉しそうに笑った。



③縁断ちの剣

テーマは分離。


これは「エンダチノツルギ」だと四国めたんが語る。

良縁だろうと悪縁だろうとその人との因縁を確実に断つことができる。

夏色花梨はそんな御託はいいから早くあの男との縁を切ってくれと頼む。

自分にずっと付き纏ってるあの男との縁を…


高校3年生の夏、ちょっとしたきっかけで付き纏われるようになった他校の男。

地域の有力者の息子のようで強硬な手段も取れず困り果てていた頃、友人の伝手で胡散臭い霊能力者を頼ることになった。

半信半疑だったが駄目で元々と縁切りをしてもらった。

それから驚くことに一度もあの男の姿を見ていない。

噂によると彼は交通事故に遭い入院しているそうだ。

めたんの話を思い返す。

因縁を断ち切った相手とはどれだけ近づこうとしても近づくことはできず、それでも尚近づこうとすれば災いが降りかかる。

もう生涯あの男に付き纏われることは無いのだと思うと清々しい気分だった。


それから10年、そんな出来事もすっかり忘れた頃、花梨には付き合っている男性が出来ていた。

近々結婚も考えていて順風満帆な人生だった。

ただ一つ懸念点があるとすれば彼の持病だった。

ある夜道、発作を起こし路上へ蹲る彼。花梨は携帯で救急にかけようとする。

繋がらない。

見ると画面は暗くなっていて電源ボタンを押しても何の反応も返さなかった。

こんな時に故障かと焦りながら公衆電話を探す。

誰かに助けを求めようとするが辺りはしんと静まり返っていて人の気配はない。

結局離れた公衆電話まで辿り着き、電話をかけようとする。

繋がらない。

怒りと悲しみで取り乱し、電話機を蹴りつける花梨。

尚も助けを呼ぶ方法を探そうとする彼女の耳に、ブレーキ音が届く。

突っ込んできたトラックは電話ボックスごと彼女を押し潰した。


運び込まれてきた患者を悲しげに見つめる白衣の青年。

首を振り、死亡診断書の作成に取り掛かる。

まだ若いその女性の損傷は激しく、身元確認すらできていない状況だった。

かつては恋情に振り回されストーカー行為にまで手を染めた彼も、10年の月日を経て立派な救命医へと姿を変えていた。



④呼び声トンネル

おまけ。小春六花の出番が無かったから。


ランニング中、「おーい、助けてくれー!」という声に足を止める小春六花。

声の出所を探していると小さなトンネルに行き着く。

「大丈夫ですかー!」と声を返しながらトンネルに踏み入れる六花。

すると反対側の出入り口から走り去っていく人影が見えた。

いたずらだったのかと呆れる六花。

踵を返し立ち去ろうとする。


気づいたらトンネルの反対側に立っていた。

状況を理解できない六花。

今度は反対側の出入り口から出ようとする。

再びトンネルの反対側へ、元々入ってきた方へと移動していた。

ループしていることに気づいたのはそれを何度か繰り返した後だった。

得体の知れない状況に混乱し、取り乱す六花。

「誰か!誰かいませんかー!助けてくださーい!」と叫ぶ。

「大丈夫かー!?」と遠くから声が返って来る。

人に見つけてもらえたことがわかり安堵する六花。

だがその時あることに気づく。


「おーい、助けてくださーい!」と引き続き声を上げながらタイミングを見計らう。

トンネルの向こうから誰かが足を踏み入れたのを見届け、走り出す。

出入り口がループすることは無く、そのまま脱け出せた。

六花はそのまま振り返らずに走って行った。

「いたずらだったのか?」と怪訝な顔をする少女。

彼女がトンネルから出られなくなったのに気づくのは、もう少し後のこと…



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