前回の三種の神器に加え幾つか思いついたのでメモ。
在庫が増えてホクホクである。
①藁小屋と狼
ゼミの研究の一環でとある漁村を訪れた結月ゆかり。
村長の老婆と孫娘のミナトに勧められ、古い祠を訪れる。
興味本位で祠に触れたところ、老朽化が進んでいたのか倒壊。
村長に「あの祠を壊したんか!」される。
村の外れにある小屋に閉じ込められ、一夜を明かすことになる。
ミナトから鍵を手渡され、何があっても朝まで扉を開けてはいけないと言われる。
開けなければ大丈夫という言葉に不安げなゆかり。
一人になった後、小屋の中を調べると血痕が見つかる。
翌朝、村長とミナトが小屋を訪れる。
表情の暗いミナトを村長は叱咤する。
1年に一度は人を捧げないと村の誰かが襲われることになる。
余所者を犠牲にするのは仕方のないことだと。
鍵の壊された扉を開けると、中には誰もいない。
今までにないパターンに動揺しながらも、別の場所に連れて行かれただけかもしれないと互いに言い聞かせる。
ミナトが何かに気づき、小屋の中へと足を踏み入れる。
切り離されたノートの紙片、そこには一言…
「やっぱり帰ります」
背後で獣じみた唸り声と老婆の悲鳴が聞こえた。
逃げたのはまずかったかなぁと悩みながら歩くゆかり。
だってあんな扉と鍵で何かの侵入を防げるようには思えないし、それを抜きにしても居座ってたら祠の修繕費とか請求されるかもしれないし。
まぁなんとかなるだろと自分を納得させる。
帰ったらお祓いに行こうと心に決めるのだった。
ミナトは鍵のかからない扉を必死に押さえつける。
向こうからは祖母の絶叫と助けを呼ぶ声が響き渡る。
絶対に開けてはならない。一人食べれば終わるはずだから。
開けなければ大丈夫…開けなければ大丈夫…
②三顧の願い
路上で弾き語りをする弦巻マキ。
「いい歌ですね。」
視線を挙げると着物姿の少女が立っていた。
マキは久々に褒められたことにはにかむ。
少女は少し考えた後、歌のお礼に3つ願いを叶えてあげると言う。
冗談を言っていると思ったマキは、何の気なしにプロになりたいと答える。
それから暫くして偶然プロデューサーの目に留まったマキは、ミュージシャンとしてデビューすることになる。
人気が出始めサイン会を開くようになった頃、あの少女が再び現れる。
願いが叶ったのが彼女のおかげかはわからないが、感謝を伝えるマキ。
それを見て満足そうな笑みを浮かべた少女は、次の願いを尋ねる。
マキは躊躇いながらも、半分愚痴交じりにプライベートの悩みを口にする。
自分の活動を親に認めてもらえていないこと、好きな人に興味を持ってもらえていないこと。
少女は頷いた。
数年が経ち、マキの人生は順風満帆そのものだった。
ミュージシャンとしての人気は確立され、親や恋人にも応援してもらえるようになった。
しかし長年のオーバーワークが祟ってか、喉を痛め歌声を出せなくなってしまう。
思い悩む彼女の前に三度あの少女が現れる。
困ってると思って助けに来たと笑う少女。これが最後の願いになる。
考え込むマキに少女は明るく語る。病気を治してほしいじゃなくて、一生健康な体にしてほしいと願えばいい。そしたら死ぬまで安泰な生活だと。
少女の健気な様子にマキは笑みをこぼす。
「それもいいかもしれないけど…やっぱり…」
マキはしゃがれた声で呟いた。
「夢から覚ましてほしい。」
「…いいのですか?」
少女は戸惑いと悲哀の表情を浮かべる。
マキは穏やかに笑うだけだった。
気づくと二人が最初に出会ったあの場所に戻っていた。
ギターを抱きながら路傍に立ち尽くすマキ。
彼女を見ているのは少女だけだった。
誰も足を止めることも目をやることすら無い。
「わかってた…」
マキが絞り出すように呟く。
「私を認めてくれないってことくらい…私を好きになってくれないってことくらい初めからわかってた…!」
「それでも…!」
涙を流すマキの瞳は強く輝いていた。
「明日も歌うから…また聞きに来て。」
少女は4つ目の願いを叶えると約束した。
③傘差し様
学童の建物の向かい。古めかしい木塀の続く路地には傘を差した女の幽霊が出るという。
背の高いその女性は傘を忘れた子どもの前に現れると、傘を差して家まで送ってくれるのだ。
彼女は「傘差し様」と呼ばれ、子どもたちの間では昔から親しまれていた。
妹のきりたんから「傘差し様」に送ってもらったと聞かされた東北ずん子は、毎日彼女を迎えに行くことを決める。
高校生になったずん子にとって「傘差し様」の存在は不審者以外の何者でもなかった。
最近反抗的になっていたきりたんは姉の過保護にうんざりした様子を見せる。
お姉ちゃんだって昔「傘差し様」に送ってもらったことがあったはずだと訴えられ、ずん子は遠い記憶を辿る。
スーツ姿の女性に傘を差して送ってもらったことが確かにある。だがあれはただの親切な人、あるいはやっぱり不審者だ。
ずん子の決定は覆らなかった。
それから数日後、雨空の下二人は口論になる。
きっかけは些細なことだった。
今日の朝、雨が降るという予報を見たずん子はきりたんに傘を持つように言いつける。きりたんは晴れた空を見て雨なんか降らないと言ってつっぱねた。
その答え合わせがどうだったかというと、小雨だった。
だから傘を持っていけと言ったのにとずん子。この程度なら傘なんかいらないときりたん。
意地を張って言い合いを続けた二人はつい熱くなりすぎてしまう。
もし雨が降ってもまた「傘差し様」に送ってもらえばいい!お姉ちゃんなんかいらない!
ああそう!じゃあ勝手にしなさい!あんたなんか知らない!
雨の中、傘も持たずに駆けていくきりたん。
遠ざかっていく背中を睨んでいたずん子だったが冷静さを取り戻して彼女を追いかける。
どうしてこんな風になってしまったのだろう。前はあんなに仲良しだったのに。あの子がもっと小さい時は…
雨足が強くなっていく中、速度を速める。速足から駆け足へ。
きりたんが赤信号を突っ切っていくのが目に入り、そのままずん子も横断歩道を駆け抜けようとする。
傘を差したままのずん子の視界では、横から迫ってくる車には気づけなかった。
ぼやけていく意識の中、目に映るのはきりたんに渡すはずだった傘と、気づかずに走り去っていく彼女の背中。
そんなに濡れたら風邪を引いてしまうかもしれないから…
傘を…あなたに…
学童の建物から出てきた少女が一人、不安げに空を眺める。
雨の勢いは衰えることなく、傘を忘れた彼女の行く手を阻む。
視線を下ろすと、向かいの路地に傘を差した女性が立っていた。
少女と目が合うと、制服姿のその人は優しく笑った。
④一人の帰還者
おまけ。ヘンゼルとグレーテルを意識したけどほぼ原形無し。
まずはこうして無事に助かったことをお喜び申し上げます。あの事故の生存者は残念ながらもう諦めていました。
なんせ冬の雪山への墜落事故です。救助活動もままならず、生き残りが居たとしても見つけられたかどうか…
一点質問があります。あれから一週間になりますがどうやって麓まで辿り着いたのですか?
警官の質問に彼女は虚ろな目で一言だけ答えた。
「二人だったから。」