昔考えてたネタ。
ボイロではなくオリキャラの奴。たぶん使う機会はない。
カクサちゃん
主人公。現代の不平等に憤る中流家庭の女の子。
中学生に上がり、才能や家庭の違いを理由とした攻撃的な言動が増えた。
クラスではみんなに疎まれている。
両親は共働きで所得は平均的。虐待やネグレクトもない。
ウワズミちゃん
カクサちゃんの友達。上流家庭の女の子。
カクサちゃんから日常的に嫌味を言われながらも一緒に居続けている。
クラスでは優等生的ポジション。
両親の社会ステータスは高く何不自由ない生活を送る。
ヨドミちゃん
カクサちゃんの友達。下流家庭の女の子。
カクサちゃんからシンパシーを向けられているが返してはいない。
クラスではあまり目立たない。
片親で貧乏な生活をしており、幼い妹たちの面倒を見ている。
ナナヒカリちゃん
クラスメート。上流家庭の女の子。
非常に裕福な家柄であることを鼻にかけており、カクサちゃんから目の敵にされている。
クラスでは鼻つまみ者だがカクサちゃん程ではない。
両親や兄姉のことしか誇れることが無いのがコンプレックス。
ユガミちゃん
転校生。下流家庭の女の子。
虐待されて育ち、両親が窃盗と傷害で逮捕されたことで施設に入る。
施設や前の学校で問題を起こし、カクサちゃん達の学校に転校してくる。
カクサちゃんのことを気に入り、共に周囲に嫌がらせをするようになる。
クラスメートたち
ほぼ名無しのモブ。
思ったことをすぐ口に出してしまうウラオモテちゃん、相手の言葉を繰り返すコダマちゃん、負け惜しみばかり言っているトーボエちゃんなどがいる。
第一話「カクサちゃん」
カクサちゃん、ウワズミちゃん、ヨドミちゃんの三人組の日常。
カクサちゃんはウワズミちゃんに嫉妬と怨嗟の言葉を吐き、ヨドミちゃんに同情と共感の眼差しを向ける。
二人はそんなカクサちゃんを疎んじながらも、小学校からの友達なこともあり仲良くしていた。
カクサちゃんは自身の不遇を嘆き、社会の不平等を呪っていた。自分は貧乏な家の子で、頭も顔も運動神経も悪いと。
そんな彼女に対するクラスのみんなからの視線はとても冷ややかだった。
ウワズミちゃんの家は確かに裕福だが、ヨドミちゃんの家の貧しさと比べたらカクサちゃんの家も十分裕福だった。
ウワズミちゃんは確かに才能に恵まれているが、ヨドミちゃんの駄目っぷりに比べたらカクサちゃんも十分恵まれていた。
カクサちゃんはどう考えても普通だった。
明らかに劣っているヨドミちゃんが文句一つ言わない横で、よくウワズミちゃんに嫌味が言えるものだとカクサちゃんはひどく嫌われていた。
ウワズミちゃん、ヨドミちゃんも口にこそ出さないものの、カクサちゃんへの評価は一緒だった。
自分を客観視できない世間知らずのガキ。
カクサちゃんはそんな周囲の評価を感じ取り、ますます怨嗟の炎を燃やすのだった。
カクサちゃんは一人呟く。
全員死ね。
第二話「ナナヒカリちゃん」
自分より優れたものを一つでも見つけたら親の仇のように突っかかっていくカクサちゃん。
クラスで最も標的にされていたのはウワズミちゃん、次いでナナヒカリちゃんだった。
ナナヒカリちゃんは自分の家柄や能力をひけらかすタイプで、逆にカクサちゃんに喧嘩を売ることも多かった。
その性格のせいでまあまあ嫌われているナナヒカリちゃんは、自分に絡んでくれるカクサちゃんを憎からず思っていた。
しかしカクサちゃんが喧嘩するほど仲がいい程度の距離感を保つはずもなく、ナナヒカリちゃんへの人格攻撃は苛烈を極めていく。
自身とナナヒカリちゃんの比較ではなく、ウワズミちゃんとナナヒカリちゃんの比較という方向に活路を見出したカクサちゃんは的確にナナヒカリちゃんを追い詰めていく。
旧華族のお父様がいるはずなのにウワズミちゃんの方が気品があるのはなんで?
元女優のお母様がいるはずなのにウワズミちゃんの方が綺麗なのはなんで?
東大生のお兄様がいるはずなのにウワズミちゃんの方が賢いのはなんで?
モデルのお姉様がいるはずなのにウワズミちゃんの方がお洒落なのはなんで?
たくさんの凄い人達があなたのために尽くしてくれているはずなのにあなたがウワズミちゃんより劣ってるのはなんで?
追い込まれたナナヒカリちゃんはウワズミちゃんに勝負を挑む。その際、ウワズミちゃんを罵倒したことでクラスの反感を買う。
礼儀作法、顔とスタイル、テストの点数、ファッションセンス、そしてクラスでの人気。
ナナヒカリちゃんは5本勝負で全敗した。
消沈するナナヒカリちゃんを嘲笑するカクサちゃんとクラスメート達。そんな彼女たちにウワズミちゃんは怒りを露わにする。
今回は私が勝ったけれどナナヒカリちゃんはお洒落で綺麗だし、気品があって賢い。何より頑張り屋だと。
自分は戦おうとはせずに負けた人を笑うのは卑怯者のやることだと責められ、クラスメート達は恥ずかしくなる。カクサちゃんは腹を立てる。
ウワズミちゃんはナナヒカリちゃんに手を差し伸べ、これからも切磋琢磨し合おうと声をかける。
ナナヒカリちゃんはその手を払いのけた。
胸に浮かぶのはカクサちゃんが毎日のように言っていた言葉。格差の上層にいる人間には下層にいる人間のことなんかわからない。
ナナヒカリちゃんは涙を流しながら言った。
全員死ね。
第三話「ユガミちゃん」
カクサちゃん達のクラスに転校生のユガミちゃんがやって来る。
ユガミちゃんは明るく活発な様子で周囲との仲を深めていった。
カクサちゃんは相変わらず手当たり次第に嫌味ったらしく恨み言をぶつけていたが、ユガミちゃんはそんなカクサちゃんを何故か気に入ったようで彼女を追い回すようになる。
両親が居らず、施設で暮らしていることをカクサちゃんに明かすユガミちゃん。
だから優しくしてくれとでも言うのかとカクサちゃんは嫌悪感を返す。
不幸な環境にもめげずに逞しく生きる。そんな心の強さは不愉快なだけだった。
ユガミちゃんは不敵に笑っていた。今にわかると。
ユガミちゃんが来てからクラスの雰囲気はちょっとずつ悪くなっていった。
教室の至る所で口喧嘩や小競り合いが起こり、陰口や陰湿な嫌がらせが増えていく。
カクサちゃん、ウワズミちゃん、ヨドミちゃんの3人は誰かが不満の種をばらまいて対立を煽っていることに気づく。
時期的に考えてユガミちゃんが犯人だと推測したウワズミちゃんは、偽の情報を流してユガミちゃんの尻尾を掴むことに成功する。
クラスメート達の前で化けの皮を剝がされたユガミちゃん。浮かべた不敵な笑みは数日前にカクサちゃんが見たものと同じだった。
それで?とユガミちゃんが問いかける。反省するとまではいかなくとも多少は泣くなり怒るなりすると思っていたウワズミちゃんは困惑する。
まともに生きて来れなかったから、まともに生きてられる人間が憎くて憎くてしょうがない。お前たちに嫌がらせをすることだけが生きがいなんだ。
あまりにも真っすぐな悪意に誰も言い返せなかった。
ユガミちゃんがカクサちゃんに笑いかける。カクサちゃんは笑い返した。
ユガミちゃんはカクサちゃんに語る。学校は「キレた奴が負けゲーム」なんだと。
どれだけ理不尽な行いをしようと、冷静さを失って取り乱してる奴が悪者にされる。だからどうやって怒らせるかが腕の見せ所だ。
ユガミちゃんとカクサちゃんは心からの相棒だった。
幸せそうな人が許せないユガミちゃん。優れている人が許せないカクサちゃん。
似通ったルーツを持つ二人は同じ境地に達していた。
ユガミちゃんの行動力とカクサちゃんの思考力が合わさり、嫌がらせのレベルはクラスメートの許容範囲を遥かに超えていった。
ナナヒカリちゃんにしたような精神攻撃で追い詰め、取り乱して暴力を振るおうものなら即座に被害者に転じる。
親に虐待されて育ったせいで心が歪んでしまった。ユガミちゃんが持っていた盾は強力だった。
皆を嫌い、皆に嫌われ、信用と信頼を磨り潰しながら破滅へと突き進む日々。それでも二人は笑っていた。
最低でも最悪でも、心から誰かと笑い合える時間はかけがえのないものだった。
ユガミちゃんが次のターゲットにヨドミちゃんを選ぶ。
ヨドミちゃんは母子家庭で幼い妹たちの面倒を見ながら暮らしている。本当は不満も憤懣も溜まっているはず。楽にしてやろうと。
カクサちゃんにとってヨドミちゃんは憎悪の対象ではなく、友人としての引け目もあったが、結局流されるままにユガミちゃんに付き合う。
ヨドミちゃんに狙いを定めてネチネチと心の弱い部分を探す二人。
ヨドミちゃんは勉強も運動もできず見た目もパッとしないが、それは環境のせいだ。
家事に追われて自分の時間を取れず、寝不足で授業も眠ってしまうからテストの点も先生の評価も低い。
十分な食事と休養を取っていないから体育でも満足に動けず、背も低く手足も細い。
慢性的な疲労により落ち窪んだ目元と不規則な食生活による肌荒れが彼女の印象を暗く醜くしている。
それは誰のせいだ?お前の母親のせいだ。
無知で無能なお前の母親が馬鹿な男とくっつき何も考えずに4人もガキを生んだからだ。
お前ら姉妹って何人父親が同じなんだ?金蔓にもできない男を引っかけて何がしたかったんだ?遊びか?
お前に親代わりをやらせて今も別の男に股開いてるんだろうなぁ?どうする?もう1人妹が増えても育てられるか?
自分のことはどれだけ馬鹿にされても気丈にしていたヨドミちゃんも、母親のことを馬鹿にされると辛そうに目を伏せていた。
意外としぶといヨドミちゃんを潰すため、カクサちゃんとユガミちゃんはヨドミちゃんの妹に接触する。
まだ小学生の彼女を二人で囲み、母親への嫌悪感と姉への罪悪感を植え付ける。
彼女の目に消えない暗がりが出来たことを確認すると、二人は満足げに笑い合う。仕込んだ爆弾が爆発する瞬間を想像すると心が躍った。
次の日の朝、学校に来るなりヨドミちゃんはカクサちゃんとユガミちゃんに殴りかかった。
ユガミちゃんは内心ほくそ笑みながら、カクサちゃんは本心から被害者気分で先生に状況を説明する。
普段無気力で無関心なヨドミちゃんの初めて見る激高した様子にクラスメートは胸を打たれる。
どんな理由があっても暴力は許されない。まずは話し合うことが大切だ。二人も反省しているようだし仲直りを…
ヨドミちゃんは他のクラスメートたちと違って止まることは無かった。
殴ったから私が悪いのか。家族を傷つけられて怒るのがいけないことなのか。
絶対に許しちゃいけないことがある。謝ったからで済ませていいことじゃない。
殺してやる。
カクサちゃんは生まれて初めて殺意を向けられたことに衝撃を受ける。
彼女は家庭環境がアレだから精神が不安定なんでしょうとユガミちゃんが悲しげに呟き、ヨドミちゃんは先生たちに連れて行かれる。
しかしヨドミちゃんが残した芽はクラスメートたちの中で育まれ、ユガミちゃんとカクサちゃんを排斥しようという動きは高まっていた。
ユガミちゃんは子どもじみた嫌がらせ程度ではビクともしなかったが、カクサちゃんはヨドミちゃんの一件以降怯えを見せるようになっていた。
感受性の高いカクサちゃんは嫌悪が憎悪へ、やがては殺意へと移り変わっていく気配を感じ取っていた。
これ以上は我々の身が危険だと暫く大人しくしているようにユガミちゃんに言い含める。彼女は聞く耳を持たなかった。
ユガミちゃんは話の分からない馬鹿ではない。ひとえにそれは精神性の違いだった。
正気の底にあるカクサちゃんと狂気の蓋を開いたユガミちゃん。
自らへの罵倒も侮辱も暴力も死さえも娯楽の延長線上でしかない。カクサちゃんは初めてユガミちゃんのことを怖いと思った。
ユガミちゃんと手を切り、クラスメートに謝るカクサちゃん。当然許されることは無く、ユガミちゃんを潰せと要求される。
カクサちゃんを嫌いになり切れないウワズミちゃん、あくまで主犯はユガミちゃんと見なしているヨドミちゃんはカクサちゃんと再び三人組を結成する。
持たざる者故の無敵の精神性を持つユガミちゃん。弱点など無いように思われていたが、ウワズミちゃんとヨドミちゃんは唯一の弱点に気づいていた。
カクサちゃんである。ユガミちゃんがただ一つ執着し、心を許した相手。
ユガミちゃんを吊るし上げるためのクラス会が開かれる。
ユガミちゃんは四面楚歌の状況にも動じず平然としていた。
自分を裏切ったにも関わらず、カクサちゃんにだけは悪意を向けず仲間に戻るよう笑いかける。
お前みたいなクズでも友達は大切なんだと思うと反吐が出るとヨドミちゃんが悪態をつく。
望みは薄かったが、カクサちゃんの説得ならばユガミちゃんが応じるのではないかと期待されていた。
どうして私にこだわるのかとカクサちゃんはユガミちゃんに問いかける。私はあなたとは違うと。
カクサちゃんの独白は自分のアイデンティティを捨てるものだった。
本当はわかっていたんだ。自分が普通の人間だって。
家も普通だし顔も頭も普通。不幸じゃないし劣ってもない。
ただ何となく気に入らないものを攻撃する理由が欲しかっただけだ。
ユガミちゃんは私も同じだと笑う。
親に虐待されたとか施設育ちとかそんなことはもう関係ないんだ。
悲惨な環境で心が壊れてしまったのか生まれつき頭がおかしかったのか。
どっちだっていい。私はただ人を苦しめたいだけなんだ。
カクサちゃんとユガミちゃんは見つめ合う。
人を拒み、貶め、嘲り、踏みにじって生きる。その先にある未来。
きっとこれが最後のチャンスだと謝るように促すカクサちゃん。
ユガミちゃんは迷いのない目で答えた。
全員死ね。
第四話「ウワズミちゃん」
ユガミちゃんはあの日以降姿を消した。
まだ中学生の少女が行方不明になったというのに、大人たちの対応は投げやりで警察も探しているのかどうか。
嫌われ者の行く道なんてこんなものだとカクサちゃんは思う。
いなくなって清々したのか、あるいはもう口にも出したくないのかクラスではユガミちゃんの話題が上がることは無い。
それでもカクサちゃんは時々思い出す。いつか二人で笑い合った帰り道を。
ユガミちゃんは親友だったのだ。
本当にカクサちゃんのおかげかは定かでないが、ユガミちゃんを追い出したことでカクサちゃんは一応クラスで許される。
しかしヨドミちゃんはもうカクサちゃんとは関わりたくないようで、結局カクサちゃんと口を利いてくれるのはウワズミちゃんだけになった。
ユガミちゃんとカクサちゃんへの反抗としての嫌がらせは、そのままカクサちゃんへのいじめへと発展していった。
あれだけのことをやったんだからいじめられても仕方がない。むしろ当然だというのがクラスの総意だった。
ウワズミちゃんも心の底では同意見だったが、カクサちゃんを庇わずにはいられなかった。
昔のカクサちゃんだったらやられっぱなしじゃなかった。もっとやり返していた。
もう仕返しとか関係なくてただ人を虐めるのが楽しいだけじゃないか。それでよくユガミちゃんのことを非難できたものだな。
まったく自分の行いを省みる知能も無いってのは幸せなもんだ。
カクサちゃんの口から昔のような悪口が飛び出ることは無かった。
心ここにあらずと言った様子の彼女に苛立っている自分を不思議に思うウワズミちゃん。
クラスメート達からはもうカクサちゃんの味方をするのを止めるように忠告される。
なんであんな奴の友達でいるのかと問われ、記憶を辿る。
カクサちゃんは今みたいに格差に憤るようになる前から怒りっぽかった。
親にも先生にもクラスメートにもいつも怒っていた。でもそれは単に機嫌が悪いとかじゃなくて、カクサちゃんとしてはどうしても腹立たしいものがあったのだ
例えば今目の前にいる、カクサちゃんを積極的に虐めているクラスメート3人組。自分もいじめられたくなかったらいじめに加担しろと言ってくる彼女たち。
この子たちは確か小学校にいた時も同じことを言った。私は敵にも味方にもなりたくなくて曖昧に笑って流してたけど、カクサちゃんは食ってかかった。
カクサちゃんは善悪とか損得で動かない。気に入るか気に入らないかで動く。
ウワズミちゃんは自分の本心に気づく。
カクサちゃんの攻撃的な言動でイラっとすることも多かったが、胸がスッとすることも多かった。
カクサちゃんに共感していたのだ。自分は善良な人間の振りでカクサちゃんを通して気に入らない奴に不満をぶつけていた。
なんだ私もクズなんじゃん。ウワズミちゃんの口元に笑みが零れる。
そのまま心からの笑顔でクラスメート達に告げた。こんな時なんて言えばいいかもう知っていた。
全員死ね。
第五話「ヨドミちゃん」
ユガミちゃんの一件以降、ヨドミちゃんはカクサちゃんを無視していた。
カクサちゃんはまだ境界で揺れ動く子供で、ユガミちゃん程どうしようもない相手ではないとわかっていたけれど、だからと言って笑って許せるほど大人ではなかった。
あれからちょっとずつ歯車が狂ってきていた。
母親を馬鹿で迷惑な人間だと見下す気持ち、幼い妹たちの面倒を見るのを煩わしく思う気持ち。それらがユガミちゃんによって呼び覚まされていた。
同じくユガミちゃん達の手で目覚めさせられた一番年の近い妹は母への不満や姉への謝罪を繰り返すようになり、家の雰囲気は悪くなっていった。
長女であるヨドミちゃんが炊事洗濯と赤ん坊の四女の世話を、次女が家事手伝いと三女の遊び相手を。そうやってヨドミちゃんの家は成り立っていた。
ほとんど母親が帰って来なくても何とかなっていたのは長女の献身と次女の助力があったからである。それに綻びが生じ始めていた。
カクサちゃんと一緒にウワズミちゃんも切ってしまったことでヨドミちゃんは一人ぼっちになっていた。
日に日にやつれていくヨドミちゃんを見兼ねてナナヒカリちゃんは彼女に接近していく。
純粋な善意だったが、追い詰められたヨドミちゃんにとっては癇に障るものだった。
ヨドミちゃんはナナヒカリちゃんが嫌いだった。金持ちの家に生まれて家族仲も良くて何の苦労もなく…
そんな感情は絶対に表に出さないと決めていたのに、精神が不安定になったことで押し込めなくなってきていた。
自分が消えていくような感覚だった。
貧しくても家族5人で楽しく暮らしているつもりだった。学校では駄目駄目でも家庭では大きな役割を果たしていることが誇りだった。
母のことも恨んでなんかいなかった。ちょっと考えが足りないところもあるけれど、自分たちを養ってくれているし愛してくれていると。
時々スイッチが切れたように何も手につかない時間ができた。家事が滞り、母親が彼女を叱った。
初めて彼女は親に逆らった。本来家のことをやるのは親の務めだ、やってくれることを当たり前だと思うなと。
母親は驚き、泣いて謝った。そんな姿を見ると罪悪感が湧いて、自分を嫌いになった。
一番年の近い妹がその下の妹にユガミちゃん達に言われたようなことを伝えようとしていた。必死に止めたが、なぜ止めるのかという問いには答えることはできなかった。
学校にいても赤ん坊の泣き声が聞こえる気がした。授業はますます手がつかなくなってこのままだと行ける高校が無いと言われた。
辛くて苦しくてもう限界だと思った時、頭の中で何かがちぎれる感覚がした。
朝目覚めると、思考のノイズは消えていた。
いつものように朝食とお弁当を用意し、二人を送り出した。学校に行く途中で一人を保育所に預けた。
教室ではナナヒカリちゃんが遠慮がちに話しかけてきた。心配してくれてありがとうと笑うと、嬉しそうに笑い返してきた。
視界の端でウワズミちゃんとカクサちゃんを捉える。なんだかこれで元通りだなと思った。
その日は珍しく一度も眠らずに授業を聞けた。
家に帰ったら一番年の近い妹に大事な話をした。
お母さんに優しくすること、私は大好きな家族のためならいくらでも頑張れるから大丈夫だということ。
妹はヨドミちゃんに抱き締められながら泣いた。ヨドミちゃんも少し泣いた。
これでいいのだ。
誰かが背負わなければいけないなら、他の誰にも背負わせたくはない。
ヨドミちゃんは心の中で決して口にはしない言葉を呟いた。
全員死ね。
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